キーウのロシア軍車列

キーウのロシア軍車列：停滞と撤退の真相

2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻の初期段階において、キーウ近郊に現れたロシア軍の巨大な車列は、世界中の注目を集めました。この車列は、全長約64キロメートルにも及ぶ大規模なものでしたが、その進撃は停滞し、最終的には撤退を余儀なくされました。本稿では、この車列の出現から停滞、そして撤退に至るまでの経緯を詳しく解説します。

車列の出現と進撃

2022年2月28日、衛星画像によって初めて確認されたこの車列は、ベラルーシからウクライナ領内に侵入し、プリビルスク、イヴァンキフを経由して南下、キーウを目指していました。当初、この車列はキーウを包囲し、圧力をかけることを目的としていたと考えられています。

しかし、イギリス国防省の発表によると、3月7日の時点では、車列はキーウ中心部から30キロメートル以上離れた地点で停滞しており、ウクライナ軍の抵抗、機械的故障、交通渋滞などがその原因とされていました。また、タイム誌は3月1日時点で、車列がキーウ中心部から25キロメートル地点に位置していたと報じています。これらの報道から、車列の進撃は初期段階から困難を極めていたことが伺えます。

車列の構成と規模

3月2日の推定では、この車列には最大1万5000人の兵士がいたとされています。車列は様々な軍用車両で構成され、道路の広い部分では3列に並んで駐車している様子が確認されました。衛星写真からは、補給トラック、軍隊、武器、大砲などで構成されており、その規模は最大で64キロメートルに及んだとされています。

車列をめぐる防空の状況

車列は移動式対空システムによって保護されていましたが、ウクライナ軍のバイラクタルTB2ドローンによる攻撃も確認されており、3月1日までに（ロシアの）SAMミサイルシステム3基、152mm砲4門、トラック10台以上、戦車数台が破壊されました。TB2ドローンの有効性は、ロシアが制空権を確保できなかったこと、ロシアの調整とコミュニケーションの欠如によるものでした。しかし、ウクライナ軍はTB2ドローンの保有数が限られており、運用できる兵士も不足していたため、この車列への活用は限定的でした。さらに、ロシア軍はGPS信号を介してTB2を追跡し、撃墜する可能性がありました。

また、3月3日までに、ロシア軍は車列の周辺に多くの防空システムを配置したと見られています。防空システムの範囲内であったため、ウクライナ空軍にとって攻撃が困難な標的となりました。

車列停滞の原因

車列は、侵攻開始から8日後にはキーウ中心部から約30キロメートルの地点で停滞し、その後数日間はほとんど動かなかったとされています。この停滞の原因については様々な議論があります。

燃料と食料の不足

多くの解説では、食料不足が車列の停滞につながったと指摘しています。また、燃料不足により車両が放棄されるなど、補給の問題が明らかになりました。ロシア兵が地元のウクライナ人に食料や燃料を求める場面も確認されています。

天候、地形、交通渋滞

一部メディアは、車両がぬかるみにはまり交通渋滞を引き起こしたと報じています。温暖な冬により地面が凍結していなかったため、ロシア軍の車両が泥濘地や湿地帯を移動できなかったことが原因と考えられます。

ウクライナ軍の攻撃

ウクライナ軍による攻撃も車列停滞の一因とされています。車列は、大砲、トルコ製ドローン、待ち伏せ攻撃などによって攻撃を受けたとされていますが、詳細な情報は限られています。3月28日には、ウクライナのドローン攻撃によって車列が停止したとの報道もありました。

その他の要因

不十分な車両メンテナンス、作戦基地設置の遅れ、ロシア軍全体の準備不足、コミュニケーションの問題なども、車列の停滞を引き起こした要因として挙げられます。また、車列は前線基地の設置を待機していただけであった可能性も指摘されています。

戦略的分析

車列の出現当初は、キーウを包囲するための作戦であると想定されていましたが、実際には停滞を続けました。軍事専門家からは、停滞が兵士の士気を低下させ、攻撃のリスクを高めると指摘されました。

また、車列の兵士は補給トラックの食料で生き残ったと見られており、この車列はキーウ包囲計画の一部であるとともに、既に戦闘を行っている部隊への補給の役割も担っていた可能性も指摘されています。

ウクライナ軍の交戦

ウクライナ軍は、西側諸国から提供された対戦車ミサイルなどで車列を攻撃しました。また、進撃ルートに障害物を設置したり、狙撃兵がロシア兵を狙撃するなど、様々な方法で車列への抵抗を試みました。3月3日には、車列の前に出向いたアンドレイ・スホベツキー少将がウクライナの狙撃兵によって殺害されました。また、ウクライナのエアロロズヴィドカグループも、自作のドローンで車列を攻撃しました。

車列の再配置と撤退

3月11日までに、車列の一部が離れて射撃位置に配置されました。大砲を含む一部はホストメリ付近に、別の一部はルビャンカ近くの森に配置されました。3月16日、アメリカ国防総省は、キーウ北のロシア軍車列が停滞していると発表しましたが、3月31日には、車列の存在を確認できなかったと述べました。最終的に、アメリカ国防総省は「車列は、決して自分たちの任務を実際に達成してはいない」と結論付けました。

2022年4月2日、ウクライナ国防省は「全キーウ州が占領者から解放された」と宣言しました。

まとめ

キーウのロシア軍車列は、その大規模さと注目度とは裏腹に、キーウ攻略という当初の目的を果たすことなく、停滞と撤退を余儀なくされました。その背景には、補給不足、地形的な問題、ウクライナ軍の抵抗、ロシア軍側の作戦の不手際など、複合的な要因が絡み合っていました。この車列の失敗は、ロシア軍の作戦遂行能力の課題を浮き彫りにするとともに、ウクライナ軍の粘り強い抵抗を象徴する出来事となりました。

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