ギヨーム・ド・ティール

ギヨーム・ド・ティール（Guillaume de Tyr, 1130年頃 - 1186年9月29日）は、十字軍時代におけるエルサレム王国の歴史を記録した重要な歴史家であり、ティール大司教を務めた人物です。彼は、12世紀のエルサレム王国における政治、文化、宗教の動向を詳細に記録し、後世に貴重な情報を提供しました。

生涯

ギヨーム・ド・ティールは、1130年頃にエルサレムで生まれました。彼の両親は、フランスまたはイタリア系の裕福な商人であったと考えられています。彼はエルサレムで初等教育を受けた後、後のエルサレム王ボードゥアン3世と学友となりました。その後、聖職者としての道を進むために西ヨーロッパで教育を受け、1165年にエルサレム王国に戻りました。帰国後、アッコンの司教座聖堂参事会員となり、その後、ティールの助祭長に任命され、王国の外交官としても活躍しました。

1170年、ギヨームはボードゥアン4世の教育係となり、ボードゥアンの皮膚病（おそらくハンセン病）を最初に気づいた人物として知られています。この頃から、彼はエルサレム王国の歴史の記述を始めました。1174年にボードゥアン4世が王位を継承すると、ギヨームは大法官に任命され、1175年にはティール大司教に就任しました。1177年には、病に倒れたエルサレム総大司教の代理として、モンフェラート侯ギヨームの葬儀を取り仕切りました。1179年には、第3ラテラン公会議に出席し、十字軍の派遣を要請しましたが、これは成功しませんでした。

1180年にエルサレムに戻ったギヨームは、エルサレム総大司教の最有力候補と目されていましたが、王国の宮廷派と貴族派の対立に巻き込まれました。貴族派のトリポリ伯レーモンの保護下にあったと見なされていたギヨームは、宮廷派の王母アニェスに嫌われ、総大司教には選出されませんでした。その後もティール大司教として職務を続け、歴史の編纂に尽力しましたが、1186年にこの世を去りました。

著作

ギヨーム・ド・ティールの主な著作は、『エルサレム王国の年代記』（Historia rerum in partibus transmarinis gestarum）、または『エルサレムの歴史』（Historia Ierosolimitana）、あるいは単に『歴史』（Historia）としても知られる23巻に及ぶ大作です。この年代記は、十字軍以前のシリアの歴史から始まり、第1回十字軍、エルサレム王国の成立を経て、彼の死の直前である1180年代で中断しています。

彼の著作は、当時の政治情勢や社会状況を詳細に描写しており、特にエルサレム王国の内部紛争や十字軍の歴史に関する貴重な情報を提供しています。しかし、王母アニェスをはじめとする宮廷派の人々を批判的に描いているため、ギヨーム自身がエルサレム総大司教の地位をめぐって宮廷派と対立していたという政治的背景を考慮する必要があります。この著作は、ラテン語で書かれた原典に加え、古フランス語への翻訳版も存在し、中世史研究における重要な資料となっています。

外部リンク

Excerpts from the Historia from the Internet Medieval Sourcebook
Fiasco at Damascus 1148 from the Internet Medieval Sourcebook
Latin version from the Patrologia Latina, via The Latin Library (ラテン語)
Latin version from Crusades-Encyclopedia.com (ラテン語)
Latin version with concordance from Intertext.com (ラテン語)
Old French translation and continuation from Internet Medieval Sourcebook (フランス語)

ギヨーム・ド・ティールの著作は、中世のエルサレム王国における生活や文化、政治情勢を理解する上で欠かせない資料であり、今日においても多くの歴史研究者によって参照されています。

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