クエン酸ナトリウム

クエン酸ナトリウム (Sodium Citrate)

クエン酸ナトリウム（英: sodium citrate）は、柑橘類など多くの自然界に存在する有機酸であるクエン酸と、アルカリ金属であるナトリウムが反応して生成される化合物の総称です。クエン酸は、その化学構造上、分子内に3つのカルボキシ基（-COOH）を持つ「三価のカルボン酸」という特徴があります。このクエン酸の特性により、ナトリウムが結合するカルボキシ基の数に応じて、主に以下の3種類のナトリウム塩として存在します。

主な種類と性質・用途

クエン酸一ナトリウム (Monosodium Citrate)

クエン酸分子の3つのカルボキシ基のうち、1つにナトリウムイオンが結合した塩です。その示性式はNaH₂(C₃H₅O(COO)₃)と表されます。

クエン酸二ナトリウム (Disodium Citrate)

クエン酸分子の3つのカルボキシ基のうち、2つにナトリウムイオンが結合した塩です。示性式はNa₂H(C₃H₅O(COO)₃)で示されます。このクエン酸二ナトリウムは、特に食品産業において重要な役割を果たしています。食品の酸化による品質劣化を抑制するための酸化防止剤として利用されるほか、食品の酸性度（pH）を適切な範囲に保つためのpH調整剤としても機能します。さらに、食品中に存在する金属イオンを捕まえ、食品の品質や安定性を損なわせる反応を防ぐためのキレート剤（金属イオン封鎖剤）としても広く用いられています。

クエン酸三ナトリウム (Trisodium Citrate)

クエン酸分子の全てのカルボキシ基（3つ）にナトリウムイオンが結合した塩であり、クエン酸ナトリウムの中で最も一般的な形態の一つです。その示性式はNa₃(C₃H₅O(COO)₃)またはNa₃C₆H₅O₇と表されます。クエン酸三ナトリウムは、クエン酸と炭酸水素ナトリウム（一般に重曹として知られる物質）を水中で反応させることで容易に合成することができます。この化学反応は中和反応であり、以下のように表されます。


3NaHCO₃ + C₆H₈O₇ → Na₃C₆H₅O₇ + 3CO₂ + 3H₂O


この反応では、クエン酸三ナトリウムのほかに、二酸化炭素ガスと水が生成されます。クエン酸三ナトリウムの分子量は258.06です。

クエン酸三ナトリウムは、その風味において心地よい塩味と共に独特の香味を持っています。この性質と多様な機能から、食品添加物として非常に幅広く利用されています。具体的には、食品に酸味を与える酸味料、品質を一定に保つためのpH調整剤、食品の風味を高める調味料や香料として使用されます。また、微生物の増殖を抑え、食品の保存性を高める保存料としての効果も期待されています。

特に加工食品においては、クエン酸三ナトリウムは重要な機能性を持つ成分です。例えば、プロセスチーズやその関連製品において、油分と水分を均一に混合させる乳化剤として不可欠な役割を果たし、滑らかで安定した組織を作り出すのに寄与しています。

クエン酸およびそのナトリウム塩は、古くから多くの食品に天然成分として含まれていました。このため、食品添加物として利用される場合でも、比較的高い安全性が確認されており、安心して様々な食品に使用されています。

食品分野以外でも、クエン酸三ナトリウムは重要な用途を持っています。医療分野では、血液が試験管内や保存中に凝固してしまうのを防ぐ抗凝固薬として使用されています。これにより、輸血用血液の適切な保存や、臨床検査のための血液サンプルの取り扱いが容易になっています。

クエン酸ナトリウム、中でもクエン酸三ナトリウムは、その多様な化学的性質と生理的安全性から、食品や医療をはじめとする幅広い分野で重要な役割を担っている物質です。

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