ククテニ文化

ククテニ文化（トリポリエ文化）：謎めいた新石器時代の文明

ククテニ文化、またはトリポリエ文化と呼ばれるこの新石器時代の文化は、紀元前5500年から2750年頃、現在のルーマニア、モルドバ、ウクライナにまたがるカルパティア山脈からドニプロ川流域にかけて栄えました。ルーマニアの地名「ククテニ」、ウクライナの地名に由来する「トリポリエ」という名称で呼ばれることが多く、両者を合わせた「ククテニ・トリピッリャ文化」と呼ばれることもあります。

この文化の最も特徴的な遺物として挙げられるのは、精緻な文様で彩られた彩色土器です。これらの土器は、単なる生活用具を超えた、文化的・宗教的な意味合いを持っていたと考えられています。

ククテニ文化の人々は、農耕と牧畜を主な生業としていました。狩猟や漁労も行っていたと考えられていますが、経済活動の中心は農作物と家畜の飼育にありました。興味深いのは、社会構造において階級分化がほとんど見られない点です。大規模な集落が形成されており、中には人口が一万人を超えたと推測される都市規模の集落もあったとされます。家屋は木造で、一階建てもしくは二階建ての構造だったと考えられています。

しかし、ククテニ文化には不可解な点も存在します。多くの集落跡において、数十年おきに集落全体が意図的に焼かれた痕跡が見られるのです。この焼却の目的については、いまだ解明されていませんが、集落の「死と再生」を象徴する宗教儀式の一種だったという説が有力です。この儀式は、当時の人々の世界観や信仰を理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。

墓地については、数少ない例しか発見されていません。しかし、集落の中央部に位置する、宗教的な建物と推測される構造物に伴って墓が見つかった例もあり、宗教儀式との関連性が示唆されています。また、特徴的な遺物として土偶も知られています。考古学者マリヤ・ギンブタスはこれらの土偶を豊穣の女神と解釈しており、古代東スラヴ民族の地母神信仰の象徴と捉える見解もあります。これは、大地の豊饒さを象徴する女性像が崇拝されていた可能性を示唆しています。

ククテニ文化は、インド・ヨーロッパ語族が東方のステップ地帯から侵入してくる以前の「古ヨーロッパ」の代表的な文化と考えられています。その後、この地域にはヤムナ文化（竪穴墓文化）やカタコンブ文化（横穴墓文化）が拡がっていきました。考古学者のギンブタスのクルガン仮説では、ヤムナ文化などの「クルガン文化」が原インド・ヨーロッパ語族文化に当たるとされています。ククテニ文化とインド・ヨーロッパ語族との関係は明確ではありませんが、スレドニ・ストグ文化やヤムナ文化との接触があったことは確認されています。

ククテニ文化は、その高度な土器文化や大規模集落、そして謎めいた集落焼却など、多くの謎を残したまま、歴史の彼方へと消えていきました。今後の研究により、この文化の全貌が明らかになることに期待したいものです。

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