クサシギ

クサシギ（草鷸）

チドリ目シギ科に分類される鳥類の一種で、学名を Tringa ochropus といいます。和名の「クサシギ」は、主に水辺の草地や湿地を生息環境とすることに由来すると考えられています。全長はおよそ22センチメートルほどで、シギの仲間としては比較的小型から中型の部類に入ります。

分布と渡り

クサシギは、ユーラシア大陸の北部地域に広く繁殖地を持っています。繁殖期を終えると、冬季にはより温暖な地域を目指して長距離の渡りを行います。主な越冬地は、アフリカ大陸、中東地域、インド、中国南部、そして東南アジアといった広範なエリアに及びます。

日本列島においては、繁殖地と越冬地を結ぶ渡りの途中に立ち寄る「旅鳥」として、春季と秋季の渡りの時期に全国各地で観察されます。しかし、本州の関東地方より南の地域では、一部の個体がそのまま留まり、冬を越す「冬鳥」としても見られます。このような地域的な違いが見られるのも、本種の渡りの特徴の一つです。

形態

成鳥の形態は、季節によって羽の色合いが変化します。全長は約22センチメートル程度です。オスとメスの見た目に大きな違いはありません（雌雄同色）。

成鳥夏羽: 繁殖期に見られる夏羽では、頭部から背中、そして翼にかけての体の上面が、やや緑色を帯びた黒褐色をしています。この上面には、細かい白い斑点が密に散りばめられており、独特の模様を形成しています。腹部から下面、そして腰の部分は純白です。嘴は黒色をしており、脚はやや灰色がかった緑色をしています。

成鳥冬羽: 非繁殖期に見られる冬羽に換羽すると、体の上面の色が暗い灰褐色へと変化します。夏羽で見られた白い斑紋は残るものの、夏羽ほどはっきりとは目立たなくなります。

生態

クサシギの生態には、他の多くのシギとは異なるいくつかの特徴があります。

生息環境: 繁殖期以外においては、湖沼の縁、河川のほとり、湿地帯、水田といった淡水域やそれに近い汽水域を主な生息場所とします。海岸や干潟といった塩水域で観察されることは非常に稀です。繁殖期には、再び水辺の湿地環境を利用します。

行動様式: 渡りの時期を含め、他の多くのシギのように大規模な群れを作ることはほとんどありません。通常は単独で行動していることが多く、見られたとしても数羽の小さなまとまりでいる程度です。このような単独性が強い点も、本種の生態的な特徴と言えます。

食性: 食性は主に動物食です。水深の浅い場所を選んで、泥の中や水面近くに潜む昆虫類やその幼虫、エビやカニといった甲殻類、小さな貝類などを捕食します。水辺を歩きながら、嘴を使って獲物を探します。稀に、植物の種子なども口にすることがあるとされています。

繁殖: 繁殖期になると、湿地環境の中で営巣を行います。主に地上や倒木の上に巣を作るほか、他の鳥類、例えばツグミやムクドリなどが使い終えた古巣を再利用することも知られています。一度に産む卵の数は、通常は4個です。卵を温める抱卵は、オスとメスの親鳥が交代で行います。抱卵期間は、おおよそ21日から22日間程度です。

クサシギは、日本の水辺で比較的よく見られるシギの一つですが、その単独行動や特定の生息環境への好みなど、他のシギとの違いを知ることで、より深く観察を楽しむことができるでしょう。

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