クスノハカエデ

クスノハカエデ（Acer itoanum）

概要

クスノハカエデは、沖縄本島を中心に分布する常緑の高木で、他のカエデとは異なりモミジのような葉を持ちません。この種の特長は、高さが最大15メートル、直径が50センチメートルに達することです。また、その葉は2年生であり、花期は3月になります。特に、沖縄の山地や海岸地域で多く見られます。

特徴

クスノハカエデは、常緑性で無毛の若枝を持ち、年を経るにつれて灰色がかります。葉は革質で、卵型から広卵型をしており、基部が丸く尖った形状をしています。葉のサイズは長さ4.5～10cm、幅2～5cmほどで、葉柄の長さは約1cmです。また、葉の表面は緑色、裏面は白っぽく、時に柔らかな毛が見られます。その特徴的な葉脈は三行脈がはっきりしており、側脈が3～5対あり、網状脈も観察できます。

この種は両性花と雄性花を持ち、複散房状の花序を形成し、約30個の淡黄色の花が集まります。花の構造は緻密で、放射相称の5数性であり、雄しべは通常8本存在します。また、果実は2つの分果から構成され、それぞれ果翼を持ちます。

生育環境

沖縄島を中心に、特に石灰岩地の森林や宅地、神聖な場に植栽されています。初島（1975）によると、沖永良部島、与論島を含む琉球列島に自生するとされますが、奄美大島の分布については明確な情報は少ないです。また、台湾にも分布する可能性が示唆されていますが、確証はありません。

分類と保護状況

クスノハカエデは文献により異なる分類がなされており、初島（1975）ではA. oblongum ssp. itoanumとされ、牧野原（2017）では独立種として扱っています。しかし、Hui-Lin Li（1952）の研究に基づき、A. oblongumとは明確に異なる特色を持つとされます。

環境省のレッドデータブックでは、クスノハカエデは絶滅危惧II類に指定されており、特に鹿児島県では準絶滅危惧II類に分類されています。沖縄県では、分布は限られているものの、特定の地域で普通種として自生することから、特に保護が求められていないと考えられます。

利用と文化

クスノハカエデは庭園樹や街路樹、防風樹として植栽されることがあり、材は硬くて加工が容易なため、建材や家具の原料として重宝されています。また、葉は緑肥として利用されることもあります。沖縄本島では、ウンジャミ祭祀の際に神事に使用される植物の束の中に、本種が取り入れられることが伝統的に行われています。そのため、地域の文化においても重要な役割を果たしています。

参考文献

• - 牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
• - 初島住彦、『琉球植物誌』追加・訂正版、(1975)、 沖縄生物教育研究会
• - 佐竹義輔他編著、『日本の野生植物 木本 II』 、(1986)、平凡社
• - 大橋広好他編、『改訂新版 日本の野生植物 3 バラ科～センダン科』、(2016)、平凡社
• - 天野鉄夫、『琉球列島有用樹木誌』、(1982)、琉球列島有用樹木誌刊行会
• - 新里孝和他、「沖縄、古宇利島と塩屋湾のウンジャミの祭祀植物」、(2020)、琉球大学農学部学術報告、第66号 :p.51-63.

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