クメジマボタル

クメジマボタル（学名：Nipponoluciola owadai）は、コウチュウ目ホタル科に分類される昆虫で、日本の沖縄県久米島にのみ生息する固有種です。世界には2000種類以上のホタル科の昆虫が存在するとされていますが、その中で幼虫期を水中で過ごす「水生ホタル」はわずか10種類ほどと非常に珍しく、日本国内にはゲンジボタル、ヘイケボタル、そしてこのクメジマボタルの3種が確認されています。

発見と分類

このホタルは、1993年に国立科学博物館の大和田守氏とアマチュア昆虫研究家の木村正明氏によって、久米島の白瀬川で初めて発見されました。翌1994年には、その生態や形態の特徴から新種として正式に記載されています。かつては日本の他の多くのホタルと同様にLuciola属に含められていましたが、2022年の遺伝子研究などに基づく論文によって、日本のゲンジボタルとともにNipponoluciolaという新しい属に分類が見直されました。

分布

クメジマボタルの生息地は、琉球列島の久米島に限定されています。久米島は「ホタルの島」としても知られており、クメジマボタル以外にも、オキナワクシヒゲボタル、クメジマミナミボタル、シブイロヒゲボタル、クロイワボタル、オキナワスジボタル、そしてオキナワマドボタルの久米島亜種（クメジママドボタル）といった合計7種類のホタルが確認されています。

生態

クメジマボタルの幼虫は、5月下旬頃に卵から孵化すると、翌年の2月から3月頃までの約9ヶ月間、川の中で水生生活を送ります。この期間、幼虫は川に生息する巻き貝であるカワニナなどを捕食しながら成長し、何度か脱皮を繰り返します。十分に成長した幼虫は、2月から3月頃になると水から上がり、川岸の土の中に潜って蛹になります。蛹の期間は約40日で、この間に成虫へと姿を変えます。成虫は4月から5月上旬にかけて羽化し、活動します。オスは尾部の発光器をリズミカルに明滅させながら集団で飛び回り、メスを誘います。交尾を終えたメスは、明け方に光りながら移動し、川沿いのコケや倒木などに集まってまとめて産卵します。成虫の体長はオスが14〜16mm、メスが16〜18mm程度で、メスの方がやや大きい傾向があります。同じ水生ホタルであるゲンジボタルと見た目が似ていますが、クメジマボタルの前胸背板（背中の盾のような部分）はだいだい色で模様がありません。一方、ゲンジボタルはピンク色で中心に黒い線が入る点で区別できます。成虫の寿命は非常に短く、オスは6日ほど、メスでも10日程度しか生きられません。

保護の現状

クメジマボタルは、その希少性から様々な法令や指定によって保護されています。1994年2月4日には、沖縄県の天然記念物に指定されました。さらに同年12月には、種の保存法に基づき環境省の緊急指定種に指定され、3年間手厚い保護が行われました。その後、2016年1月には、より恒久的な保護が必要として、国内希少野生動植物種（特定第一種国内希少野生動植物種）に指定され、法的に厳重に保護されています。

このような公的な保護と並行して、地元久米島では住民や関係者による保護活動が積極的に展開されています。1994年には「久米島ホタルの会」（当初は「クメジマボタルの会」）が設立され、クメジマボタルの生息環境保全や啓発活動に取り組んでいます。この会は2011年にNPO法人となり、活動の幅を広げています。また、平成20年度（2008年）には、環境大臣賞の「こどもホタレンジャー」部門を、地元の子どもたちと共に受賞するなど、次世代への環境教育にも力を入れています。2000年5月には、クメジマボタルの保護や生態観察、普及啓発のための施設「久米島ホタル館」が開館し、通年でホタルに関する情報提供や、時期限定でホタル鑑賞会なども実施されています。

こうした長年の保護活動により、クメジマボタルの生息数は2012年以降、一時的に回復の兆しを見せましたが、依然として不安定な状況が続いています。2018年には生息数が大幅に減少するなど、環境の変化などによる影響を受けやすいため、継続的な保護と生息環境の改善に向けた取り組みが重要となっています。

もう一度検索