クライブ・カッスラー

クライブ・カッスラー：冒険小説家と海洋探検家の生涯

クライブ・エリック・カッスラー(1931年 7月15日-2020年 2月24日)は、アメリカを代表する冒険小説家であり、同時に類まれな海洋探検家でした。数々のベストセラーを生み出し、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに20回以上も名を連ねた人気作家として広く知られています。しかし、カッスラーの功績は小説執筆だけにとどまりません。彼は自ら設立した海洋探査組織NUMA(National Underwater and Marine Agency)を率いて、60隻以上の沈没船や行方不明船を発見するという、並外れた探検業績を残しました。

生い立ちと初期のキャリア

イリノイ州オーロラ市で生まれたカッスラーは、カリフォルニア州アルハンブラで育ちました。彼の父は第一次世界大戦でドイツ軍に、叔父はアメリカ軍のエースパイロットとして従軍したという、戦争を身近に感じて育った経験を持っていました。14歳でボーイスカウトのイーグルスカウトに認定されると、パサデナ・シティ・カレッジに進学。その後、朝鮮戦争勃発に伴いアメリカ空軍に入隊し、航空輸送部門で整備士や技術者として勤務、軍曹まで昇進しました。

除隊後は広告代理店に勤務し、コピーライターからクリエイティブ・ディレクターへとキャリアを積みます。ラジオやテレビコマーシャルのプロデュースも手掛け、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルなどでも受賞するなど、クリエイティブな才能を発揮していました。

作家活動の開始とダーク・ピット・シリーズ

1965年、妻の夜勤勤務をきっかけに、子供を寝かしつけた後の時間を利用して小説の執筆を始めます。1973年、架空の海洋探査組織NUMAに所属するダイバー、ダーク・ピットを主人公とした『海中密輸ルートを探れ』で作家デビューを果たしました。初期の作品はオーソドックスな海洋スリラーでしたが、『タイタニックを引き揚げろ』で、冒険、最先端技術、悪役、失われた船、そして女性といった要素を組み合わせた、カッスラーの代表的なスタイルが確立されました。この作品以降、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに17作連続でランクインするなど、人気作家としての地位を不動のものとしました。

NUMAの設立と海洋探検

1979年、カッスラーは小説と同じ名前の非営利組織NUMAを設立。本格的な海洋探査に乗り出します。NUMAによる探査は世界的な注目を集め、タイタニック号の救助船カルパチア、南北戦争時の南軍艦マナサス、謎の遭難船メアリー・セレスト、そして南北戦争で初めて敵艦を撃沈した潜水艦ハンリーなど、数々の歴史的な発見に貢献しました。これらの探査活動はNUMAのウェブサイトで公開されていましたが、後に削除されています。

晩年と遺産

1996年にはノンフィクション『沈んだ船を探り出せ』を出版。海洋考古学への貢献によりニューヨーク海事大学から博士号を授与されました。また、アメリカ海軍記念財団から海軍遺産賞を受賞するなど、その功績は高く評価されました。探検家としての活動以外に、クラシックカー収集家としても知られています。2003年に妻を亡くした後も、息子であるダーク・カッスラーと共著で小説を執筆するなど、精力的に創作活動を続けました。2020年 2月24日、アリゾナ州スコッツデールにて88歳で亡くなりました。彼の作品は40以上の言語に翻訳され、100以上の国で読まれています。

作品群

カッスラーの作品は、軍事的な要素を控えめにしたテクノスリラーとして分類できます。複雑で自由奔放なプロットと、痛快な語り口が特徴です。代表作であるダーク・ピット・シリーズでは、主人公ダーク・ピットの年齢を重ねるにつれ、結婚や子供たちの誕生といった家族の物語が織り込まれ、シリーズ外伝的な作品群も展開されています。また、ハンリーの発見にまつわるノンフィクションなども手掛けています。

ダーク・ピット・シリーズ以外にも、NUMAの特命部門リーダーカート・オースティンを主人公とするNUMAファイルシリーズ、オレゴン号を舞台にしたオレゴンファイルシリーズ、探偵アイザック・ベルを主人公とするアイザック・ベル・シリーズ、トレジャーハンターであるファーゴ夫妻を描くファーゴ・アドベンチャー・シリーズなど、多様なシリーズ作品を執筆しています。さらに、子供向け作品やノンフィクション作品も発表しており、その創作活動の幅広さが伺えます。

映画化

カッスラーの作品は、幾つか映画化されています。しかし、最初の映画化作品『レイズ・ザ・タイタニック』の出来に失望したカッスラーは、ハリウッドとの映画化契約をすべて破棄。その後、改めて複数作品の映画化契約を結び、2005年には『サハラ死の砂漠を脱出せよ』が公開され、大きな成功を収めました。

クライブ・カッスラーは、冒険小説作家としてだけでなく、海洋探検家としても大きな足跡を残した稀有な存在でした。彼の作品と探検活動は、多くの人々に刺激と感動を与え続け、彼の功績はこれからも語り継がれていくでしょう。

もう一度検索