クラウディウス・キウィリスの謀議

レンブラントの最高傑作にして最大の謎：クラウディウス・キウィリスのもとでのバタウィ族の謀議

[レンブラント・ファン・レイン]は、オランダ黄金時代の巨匠として知られる画家です。彼の晩年に制作された「クラウディウス・キウィリスのもとでのバタウィ族の謀議」(以下、「バタウィ族の謀議」)は、レンブラントの油彩作品の中でも最大級であり、そして謎に満ちた作品として知られています。

絵画の主題：古代ローマとバタウィ族の反乱

この絵画は、西暦69年から70年にかけて、現在のオランダにあたる地域で起こったバタウィ族の反乱を描いています。バタウィ族はゲルマン系民族で、ローマ帝国の支配下にありました。反乱の指導者であるクラウディウス・キウィリスは、ローマに対する抵抗を率い、一時的に独立を宣言するも、最終的にはローマ軍に敗北します。

この出来事は、ローマの歴史家タキトゥスの「同時代史」に記録されており、レンブラントはその記述を基に絵画を制作しました。絵画の中心は、バタウィ族の族長たちがキウィリスに忠誠を誓う場面です。キウィリスは片目を失っており、その傷は絵画の中でも強調されています。

制作の経緯：アムステルダム市庁舎装飾とレンブラントの苦境

「バタウィ族の謀議」は、アムステルダム市庁舎(現在の王宮)の装飾を目的として、1661年から1662年にかけて制作されました。当時のアムステルダムは、世界貿易の中心地として繁栄しており、市庁舎の装飾は、その富と威信を示すものでした。

しかし、この作品は市庁舎に飾られることはありませんでした。当初は巨大なルネット形式で制作され、レンブラントがそれまで制作した中で最大の作品でしたが、何らかの理由で市議会に却下され、レンブラントに返還されました。その理由は、絵画の形式や仕上げ、物語へのアプローチが、他の画家たちの作品と異なっていたためであると考えられています。レンブラント独特の明暗法(キアロスクーロ)による陰影表現は、市議会が期待した英雄的な表現とは相反するものであったのかもしれません。

経済的にも苦境にあったレンブラントは、作品を売却するために、大幅にサイズを縮小し、一部を塗り直すことを余儀なくされました。

美術史における評価：シェイクスピア的な表現とレンブラントの晩年

「バタウィ族の謀議」は、レンブラントの晩年の作品を代表するものであり、その独特の表現様式は、美術史家たちから高い評価を受けています。一方で、その不穏で陰鬱な雰囲気、そして市庁舎の装飾画としては異質な雰囲気は、当時から議論の的となっていました。

美術史家のケネス・クラークは、この作品をシェイクスピア劇のような、半ば神話的で英雄的な過去を呼び起こすものと評しています。また、この絵画はレンブラントの経済的困窮や、画家の晩年の心情を反映しているという見方もあります。

絵画の来歴：アムステルダムからスウェーデンへ

「バタウィ族の謀議」は、制作後様々な経緯を経て、1734年にアムステルダムで競売にかけられ、その後スウェーデンへと渡りました。現在では、スウェーデン国立美術館に所蔵され、世界中から多くの鑑賞者を魅了し続けています。2008年には高額で売却される可能性もありましたが、最終的にはスウェーデン国立美術館に返却され、現在も同美術館で展示されています。

まとめ：謎と魅力に満ちたレンブラントの遺作

「クラウディウス・キウィリスのもとでのバタウィ族の謀議」は、レンブラントの画業における大きな謎であり、同時に、彼の晩年の芸術的才能を見事に示す傑作です。歴史的事実と、レンブラントの独自の解釈が融合したこの作品は、私たちに多くの問いを投げかけ、そして深い感銘を与え続けています。その制作背景や、美術史における評価を理解することで、この作品への理解はより一層深まることでしょう。

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