クラレンス・ブラウン

クラレンス・ブラウン（Clarence Brown）は、1890年5月10日にマサチューセッツ州で生を受けた、アメリカ映画界の歴史において重要な足跡を残した映画監督です。彼は監督の道に進む前に、意外なキャリアを積んでいました。テネシー大学でエンジニアリングを学び、その後は自動車関連の分野で働いていました。しかし、映画製作への強い関心が高まり、その道へ進むことを決意します。

映画界に入ったブラウンは、サイレント映画時代の先駆者の一人であるモーリス・トゥールヌールのもとで助監督としてキャリアをスタートさせました。第一次世界大戦による中断を経て、映画製作に復帰し、ユニヴァーサル映画での経験を積んだ後、当時ハリウッド最大のスタジオの一つであったメトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）に移籍します。このMGM時代が、彼の監督としての全盛期となりました。

MGMにおいて、クラレンス・ブラウンはスタジオを代表する監督として、数多くの成功作を手がけました。特に、MGMの看板女優であった伝説的なスター、グレタ・ガルボとの協力関係は彼のキャリアを語る上で欠かせません。ブラウンはガルボ主演の作品を多く監督し、彼女の神秘的な魅力と演技力を最大限に引き出しました。『肉体と悪魔』（1926年）、『恋多き女』（1928年）、そしてトーキー初期の成功作である『アンナ・クリスティ』（1930年）や『ロマンス』（1930年）は、ガルボのトーキー進出を飾る重要な作品であり、いずれもブラウンの演出によるものです。さらに、『アンナ・カレニナ』（1935年）や『征服』（1937年）といった歴史ドラマでもガルボと組み、彼女のスターイメージを不動のものとしました。ガルボ以外にも、当時のトップ女優であったジョーン・クロフォード主演の作品なども手がけています。

ブラウン監督の作品は、ロマンスやメロドラマに留まらず、コメディ、歴史劇、冒険物語、さらには家族向けの感動作まで、非常に幅広いジャンルに及びました。サイレント時代からトーキー時代へのスムーズな移行期における彼の技術的な適応力と、多様な物語を演出する手腕は高く評価されました。その業績はアカデミー賞でも繰り返し認められ、監督賞に生涯で6度ノミネートされるという栄誉に浴しました。残念ながら受賞には至りませんでしたが、これは彼が同時代のハリウッドで最も尊敬され、影響力のある監督の一人であったことの証と言えるでしょう。

以下は、クラレンス・ブラウンが監督した主な作品の一部です。

モヒカン族の最後 The Last of the Mohicans（1920）※共同監督
燻ゆる情炎 Smouldering Fires（1925）
肉体と悪魔 Flesh and the Devil（1926）
恋多き女 A Woman of Affairs（1928）
アンナ・クリスティ Anna Christie（1930）
ロマンス Romance（1930）
自由の魂 A Free Soul（1931）
愛に叛く者 Emma（1932）
令嬢殺人事件 Letty Lynton（1932）
夜間飛行 Night Flight（1933）
アンナ・カレニナ Anna Karenina（1935）
妻と女秘書 Wife vs. Secretary（1936）
豪華一代娘 The Gorgeous Hussy（1936）
征服 Conquest（1937）
雨ぞ降る The Rains Came（1939）
町の人気者 (映画) The Human Comedy（1943）
ドーヴァーの白い崖 The White Cliffs of Dover（1944）
緑園の天使 National Velvet（1945）
仔鹿物語 The Yearling（1946）
愛の調べ Song of Love（1947）兼製作

クラレンス・ブラウンは、97歳を迎えた1987年8月17日に死去しました。彼の長いキャリアはハリウッド映画の黄金時代と重なり、特にMGMにおけるスターシステムを支え、数々の名作を生み出した功績は、映画史において高く評価されています。彼の作品は、今日でも多くの映画ファンにとって魅力的であり続けています。

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