クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー

クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー（Creative Artists Agency、略称：CAA）は、アメリカ合衆国に拠点を置く世界有数のタレントエージェンシーです。ウィリアム・モリス・エンデヴァー（WME）、ICMパートナーズ、ユナイテッド・タレント・エージェンシー（UTA）と並び、ハリウッドを代表する「4大エージェンシー」の一つに数えられています。同社は俳優や女優、歌手、脚本家、監督、プロデューサーといったエンターテイメント分野に加え、スポーツ選手、作家、さらには政治家まで、多岐にわたる領域で約2000名のクライアントを抱え、その活動をサポートしています。

設立と黎明期

CAAは1975年、当時最大手だったウィリアム・モリス・エージェンシー（WMA）を離脱した5人の若手エージェントによって設立されました。中心となったのはマイケル・オーヴィッツで、彼は同僚だったロン・マイヤー、ウィリアム・ヘイバー、マイケル・ローゼンフェルド、ローランド・パーキンズと共に新たな道を歩むことを決意しました。設立にあたり、彼らは銀行から多額の借入を行い、ロサンゼルスのセンチュリー・シティにささやかなオフィスを構えました。設立当初の社員は彼ら5名のみで、電話番を社員の妻たちが担い、所有する車はわずか2台という状況でした。彼らは設立にあたり、「皆が一人のために、一人が皆のために」というモットーを掲げ、これはハリウッドでは珍しい日本の会社組織の理念を取り入れたものとして注目されました。設立間もない頃のCAA本社は、ダスティン・ホフマン主演の映画『トッツィー』（1982年）のロケセットとしても使用されており、当時の雰囲気を垣間見ることができます。

急成長と影響力の確立

オーヴィッツ率いるCAAは、設立から最初の10年間で急速にその存在感を高めていきました。彼らは当時アメリカではあまり一般的ではなかった「パッケージング」という手法を駆使し、映画の企画段階から複数の俳優、監督、脚本家などをまとめて提案することで、映画会社から巨額の手数料を獲得しました。この戦略が奏功し、1980年代後半にはハリウッドにおける一大新興勢力として君臨するに至ります。1988年には、その成功を象徴するかのように、著名な中国人建築家I.M.ペイの設計による新たな本社ビルをビバリーヒルズに建設しました。

特筆すべきは、日本企業によるハリウッドのメジャースタジオ買収における彼らの役割です。1989年9月には、ソニーによるコロムビア映画の買収を代理し、約4000億円という巨額の取引を成功させました。この取引は日米間の摩擦を引き起こす要因ともなりましたが、CAAは約50億円の手数料を得たとされています。また、1991年には松下電器産業によるユニバーサル映画の買収にも関与しました。これらの大型買収に関わったことで、CAA、特にマイケル・オーヴィッツの影響力は絶大なものとなり、米業界誌「プレミアマガジン」の「ハリウッドで最も影響力のある人物トップ100」では、5年連続で1位に選ばれるほどでした。

転換期と現在

1995年、CAAは大きな転機を迎えます。絶頂期にあったマイケル・オーヴィッツが突如として同社を辞任し、ウォルト・ディズニー社の社長に迎え入れられました。しかし、ディズニーでのキャリアはわずか13ヶ月で終わりを迎え、その際の約100億円に及ぶ退職金は株主による長期にわたる訴訟問題に発展しました。オーヴィッツの退任後もCAAは組織を維持・発展させ、2007年4月には再びセンチュリー・シティに新しい本社ビルを完成させています。

日本企業との関係も続いており、2009年には日本の大手芸能事務所である吉本興業と、2012年にはゲーム関連企業のプレミアムエージェンシーとそれぞれ業務提携を結んでいます。近年では、2018年1月から元ニールセンホールディングスのグローバルプレジデント兼COOであったスティーブ・ハスカー氏が、傘下のCAAグローバルの最高経営責任者（CEO）に就任するなど、経営体制も変化しています。

事業の拡大とグローバル展開

現在、CAAはエンターテイメント分野だけでなく、事業領域を大きく拡大しています。特にスポーツ分野に力を入れており、「CAA Sports」を設立。学生アスリートだけでなく、デレク・ジーター、デビッド・ベッカム、大谷翔平といった世界的なプロスポーツ選手の代理を務め、さらにはニューヨーク・ヤンキースやロサンゼルス・ドジャースといった著名な球団とも代理契約を結んでいます。また、アジア市場への展開も積極的に進めており、世界9都市に拠点を設けていますが、特に中国・北京にアジアエージェンシーを設置し、中国人クライアントも抱えています。近年では、『グエムル-漢江の怪物-』のポン・ジュノ監督や、『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督など、韓国人監督を含む多くのアジア映画人とのコネクションを密にしています。

このように、クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシーは、その設立から現在に至るまで、ハリウッドにおけるタレントエージェンシーのあり方を革新し続け、エンターテイメント、スポーツ、そしてその他幅広い分野において、世界で最も影響力のある企業の一つとしてその地位を確立しています。

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