クリスティアン・ヴェルナー

クリスティアン・ヴェルナー：メルセデス・ベンツの栄光と悲劇を刻んだドライバー

クリスティアン・ヴェルナー (1892年5月19日 - 1932年6月17日) は、20世紀初頭のモータースポーツ史に名を刻むドイツのレーシングドライバーです。ダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト (DMG)、そしてその後のダイムラー・ベンツ社のワークスドライバーとして活躍し、数々のレースで輝かしい成績を残しました。

ダイムラーでのキャリアとレースへの転身

ヴェルナーは1911年12月15日、ダイムラー社に整備士兼運転手として入社しました。高い技術と運転スキルを認められ、その後、マスタードライバーの称号を得るまでになります。第一次世界大戦後の1920年代に入ると、彼はレーシングドライバーとしての道を歩み始めます。

ヨーロッパとアメリカのレースで活躍

1922年には、すでにメルセデスチームのエースドライバーとして注目を集めていました。タルガ・フローリオでは、スーパーチャージャーを搭載したメルセデスで8位に入賞。翌1923年には、アメリカに渡りインディ500に参戦し、見事完走を果たしました。

1924年には、前年インディ500で使用したマシンでタルガ・フローリオとコッパ・フローリオの両レースに出場し、見事に両レースを制覇するという偉業を達成します。これはダイムラーにとって、イタリアという「敵地」での完全勝利であり、大きな自信へと繋がりました。

新星カラツィオラとの出会い

この頃、ダイムラーには若きルドルフ・カラツィオラが入社を希望し、ヴェルナーは彼のトライアル走行の監督を務めました。ヴェルナーはカラツィオラの才能を見抜き、高く評価しました。そして、1928年のドイツグランプリ(ニュルブルクリンク)では、カラツィオラと共にメルセデス・ベンツSS(W06)をドライブし、優勝を掴みます。

1928年ドイツグランプリ：奇跡の優勝

1928年のドイツグランプリは、激しいレース展開となりました。事故による死者や負傷者も出るほど過酷な状況の中、ヴェルナー自身も顔にオイルがかかり目を負傷し、固いステアリングで肩を脱臼するというアクシデントに見舞われ、レース途中でピットインせざるを得ませんでした。

しかし、チーム監督のアルフレート・ノイバウアーの説得により、熱中症とペダルによる火傷で苦しむカラツィオラと交代し、負傷した肩を吊るしながらもレースに復帰します。そして、チームメイトとの連携プレーによって、メルセデスチームは表彰台を独占し、ドイツグランプリ3連覇を達成する快挙を成し遂げました。

カラツィオラの回想

カラツィオラは、ヴェルナーについて「青いオーバーオールを着た背の高いやせた男…彼の長い悲しそうな顔には大きな鼻とくぼんだ目がついており、決して笑うことがないような印象をうけた」と回想しています。この記述からは、ヴェルナーのストイックで勝負に懸ける強い意志が感じられます。

ヒルクライムレースでの活躍

ヴェルナーはヒルクライムレースでも成功を収めています。1925年の第1回フライブルク-シャウインスラントヒルクライムレースで優勝し、1927年までに3連覇を達成しました。

晩年と死

1929年の世界恐慌の影響で、ダイムラー・ベンツはレース活動を縮小。ヴェルナーにも他社からの誘いがありましたが、彼はそれを断り、ダイムラー・ベンツに残りました。しかし1932年、喉頭癌のため、わずか40歳でこの世を去りました。

参考文献

Alfred Neubauer (1958). Männer, Frauen und Motoren. Hans Dulk.
アルフレート・ノイバウアー（著）、橋本茂春（訳）、1968、『スピードこそわが命』、荒地出版社
アルフレート・ノイバウアー（著）、橋本茂春（訳）、1991-03-03、『メルセデス・ベンツ ─Racing History─』、三樹書房
Rudolf Caracciola (1958). Meine Welt. Limes Verlag
ルドルフ・カラツィオラ（著）、高斎正（訳）、1969-12-10、『カラツィオラ自伝』、二玄社
Richard von Frankenberg (1960) (ドイツ語). Die ungewöhnliche Geschichte des Hauses Porsche. Motor-Presse-Verlag
リヒャルト・フォン・フランケンベルク（著）、中原義浩（訳）、1972-11-25、『F.ポルシェ その生涯と作品』、二玄社
Karl Ludvigsen (1995-06). Mercedes-Benz Quicksilver Century. Transport Bookman Publications.
* オートスポーツ

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