クリフォード・シャル

クリフォード・グレンウッド・シャル

クリフォード・グレンウッド・シャル（Clifford Glenwood Shull, 1915年9月23日 - 2001年3月31日）は、20世紀を代表するアメリカ合衆国の物理学者の一人です。彼は、物質の構造や性質を調べる上で極めて強力なツールである「中性子散乱」の実験技術を確立したパイオニアとして知られており、その功績が高く評価され、1994年にノーベル物理学賞を受賞しました。シャルの開発した手法は、固体物理学や材料科学をはじめとする多くの分野の研究に不可欠な基盤を提供しました。

シャルは1915年、ペンシルベニア州ピッツバーグに生まれました。彼はまずカーネギー工科大学で学び、その後ニューヨーク大学で物理学の学位を取得しました。学業を終えた後、初期のキャリアではテキサコ社で研究職として経験を積みました。

第二次世界大戦後、シャルはテネシー州のオークリッジ国立研究所（当時はクリントン研究所）に移り、1946年から研究活動を開始しました。ここで彼は、同僚のアーネスト・ウォランと共に、画期的な中性子散乱の技術開発に取り組みました。彼らは、原子炉から得られる中性子を利用し、これを物質研究に応用する手法を確立しました。

彼らが開発した基本的な手法はこうです。まず、原子炉からの中性子ビームを特定のエネルギーに「単色化」します。次に、この単色中性子を調べたい試料に照射します。試料中の原子によって散乱された中性子は、特定の方向に飛び散ります。シャルとウォランは、散乱された中性子の方向ごとの強度を、精密な検出器（カウンター）を用いて詳細に測定するシステムを構築しました。中性子は電気的に中性であるため、物質の奥深くまで透過する能力が高く、X線などでは難しい物質内部の構造情報を得るのに適しています。

この中性子散乱の測定から得られるデータ、特に散乱された中性子の強度分布を解析することで、物質を構成する原子がどのように空間的に配置されているか、すなわちその結晶構造を詳細かつ正確に決定することが可能になりました。さらに、物質中の原子の熱振動や磁気的な性質についても情報を引き出すことができるようになりました。シャルとウォランによって築かれたこの技術は、その後の物質科学の発展において中心的な役割を果たすことになります。

オークリッジでの研究の後、シャルは学術界に移りました。1955年にはマサチューセッツ工科大学（MIT）の物理学教授に就任し、1986年まで教鞭を執りながら研究を続け、多くの後進を育てました。

シャルはその科学的な業績に対して、いくつかの重要な賞を受賞しています。1956年にはオリバー・E・バックリー凝縮系賞を、1993年にはグレゴリー・アミノフ賞を受賞しました。そして、彼のキャリアにおける最高の栄誉として、1994年にカナダの物理学者バートラム・ブロックハウスと共にノーベル物理学賞が贈られました。ブロックハウスは中性子散乱を用いた物質の動力学研究への貢献で受賞しており、シャルの技術開発とブロックハウスの応用研究が、この分野の発展を大きく推進したことが評価された形です。残念ながら、オークリッジでの共同研究者であるアーネスト・ウォランは、ノーベル賞受賞の10年前に亡くなっていたため、この栄誉を分かち合うことはできませんでした。

クリフォード・G・シャルの開発した中性子散乱技術は、現代の物質科学研究において不可欠なツールであり続けています。超伝導物質、磁性材料、ソフトマター（高分子や生体物質など）といった多岐にわたる物質の構造やダイナミクスを理解するために、世界中の研究施設で日々利用されています。シャルは2001年にその生涯を終えましたが、彼が築いた科学的遺産は、今日の科学技術の進歩を支える重要な基盤となっています。

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