クリンク自動気象観測所

クリンク自動気象観測所

クリンク自動気象観測所（Klinck Automatic Weather Station）は、かつてデンマーク王国領グリーンランドの広大な氷床上に設置されていた、無人の気象観測拠点です。特に、1991年に記録した極めて低い気温が、北半球における観測史上最低気温として世界気象機関（WMO）に認定されたことで知られています。

設置経緯と場所

この観測所は、1990年6月に運用が開始されました。その設置目的は、グリーンランド氷床に関する国際的な研究計画の一環として、氷床コアの掘削が行われる地点の気象データをリアルタイムで取得することでした。場所は、グリーンランド氷床のほぼ頂上付近、北緯72度18分、西経40度28分、標高3216メートルという、氷床の最も厚い部分に位置していました。具体的には、グリーンランド北東部に広がる北東グリーンランド国立公園の区域内です。名称は、1990年代に近隣の研究拠点であるサミットキャンプで管理職を務めていたジェイ・クリンク氏に敬意を表して名付けられました。

当時、同様の研究目的でグリーンランド氷床計画のために近隣に設置された他の自動気象観測所としては、ケントン（Kenton）、バーバー（Barber）、ジュリー（Julie）、マット（Matt）、そしてGISP2などの観測所がありました。

観測内容と方法

クリンク自動気象観測所では、主要な観測項目として気温のみが測定されていました。この地点の極寒環境に対応するため、温度計は特殊な方法で設置されていました。雪氷面に長さ3.5メートルほどの棒を垂直に埋め込み、その最上部に1メートルの長さの棒を地面と水平になるように固定し、その先端に温度計が取り付けられていました。これにより、地表の積雪の影響を避けつつ、正確な気温を観測することが可能でした。この観測所でのデータ収集は、設置から約4年後の1994年6月まで続けられました。

記録的な最低気温

クリンク自動気象観測所が世界的に注目されることになった最大の要因は、ここで記録された極めて低い気温です。1991年12月22日、この観測所は-69.6℃という驚異的な最低気温を観測しました。この記録は長らく日の目を見ませんでしたが、2020年になって世界気象機関（WMO）の極値評価委員会が過去のデータ分析を行う過程で発見されました。

委員会はこの記録を精査し、公式に北半球で観測された史上最低気温として認定しました。これにより、それまで記録とされていたロシアのベルホヤンスク（1892年）とオイミャコン（1933年）で観測された-67.8℃の記録を更新することとなりました。さらに、この-69.6℃という気温は、西半球およびヨーロッパ大陸においても観測史上最低の気温記録となっています。

このように、クリンク自動気象観測所は短命な観測所ではありましたが、地球上の極めて厳しい気象条件下で得られた貴重なデータを提供し、特に北半球の気象記録史にその名を刻んでいます。

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