クリーモフ (企業)

クリーモフ（ОАО «Климов»）

株式公開会社「クリーモフ」は、ロシア連邦に拠点を置く主要な航空機用エンジン、特にガスタービンエンジンの開発および製造を専門とする企業です。その歴史は古く、ソビエト連邦時代には「クリーモフ設計局」として、ロシアの航空産業において極めて重要な役割を果たしました。

設立と歴史的発展

クリーモフ設計局の設立には、著名な航空工学者であったヴラジーミル・ヤーコヴレヴィチ・クリーモフ（1892年 - 1962年）が中心的な役割を果たしました。彼の指導のもと、設計局は多岐にわたる航空機用エンジンの開発に取り組むことになります。

初期の活動として注目されるのは、1930年代初頭におけるフランスのイスパノ・スイザ社製液冷V型12気筒エンジン「イスパノ・スイザ 12Y」のライセンス生産です。このエンジンはソ連の航空機に広く搭載され、当時の航空技術の発展に貢献しました。

第二次世界大戦後、世界の航空技術がジェットエンジンへと移行する中で、クリーモフ設計局もこの流れに対応しました。特に重要な成果として、イギリスのロールス・ロイス社が開発した初期のターボジェットエンジン、「ダーウェント」と「ニーン」のリバースエンジニアリングに成功したことが挙げられます。この技術習得により、ソ連は独自のジェットエンジン開発能力を急速に確立し、初期のジェット戦闘機開発を可能にしました。これらのリバースエンジニアリングの成果は、後のRD-45やVK-1、RD-500といったエンジンの誕生へと繋がります。

主な製品ラインナップ

クリーモフが手掛けてきた航空機用エンジンは、時代と共に技術的な変遷を遂げ、多様な種類が存在します。

レシプロエンジン:
ソ連時代、特に第二次世界大戦期に主力となったのが液冷式のレシプロエンジンシリーズです。M-100、M-103、M-105（後のVK-105）、VK-106、VK-107、VK-108などが開発され、戦闘機や爆撃機に広く搭載され、戦時下の航空機生産を支えました。

ガスタービンエンジン:
ジェット時代以降の主要な製品群です。
RD-33: イソトフRD-33とも呼ばれる双発ターボファンエンジンで、ロシアの主力戦闘機であるミグ-29シリーズに搭載されています。高い信頼性と比較的容易なメンテナンスが特徴です。
RD-93: RD-33の派生型であり、特に単発戦闘機向けに最適化されています。エンジンケーシング下部にギアボックスを配置するなどの設計変更が施され、JF-17戦闘機などに採用されています。
RD-35、そしてリバースエンジニアリングから生まれたRD-45やVK-1、RD-500なども、ソ連の初期ジェット航空機に搭載された重要なエンジンです。

ターボシャフトエンジン:
ヘリコプター用エンジンにおいて、クリーモフは特に豊富な実績と高い評価を得ています。
GTD-350、TV2-117、TV3-117、TV7-117などが代表的なシリーズです。
特にTV3-117シリーズは、世界のヘリコプター用エンジンの中でも非常に広く使用されており、その堅牢性と信頼性の高さから世界中で高い評価を受けています。Mi-8/Mi-17、Ka-27/Ka-29、Mi-24/Mi-35など、数多くの著名なヘリコプターに搭載されています。

* 補助動力装置 (APU):
航空機が地上にある際に、主エンジンを始動させたり、機内の電力や空調を供給したりするための補助動力装置も開発しています。GTDE-117、VK-100、VK-150などがこのカテゴリに含まれます。

現在の活動

現在、クリーモフはロシアの航空宇宙産業再編の中で、統一航空機製造会社（UAC）グループの一員として活動しています。歴史的に培われたレシプロからジェット、そして現代のガスタービン技術に至るまでの幅広い経験と技術力を背景に、ロシア国内外の様々な航空機、特にヘリコプターや戦闘機向けのエンジン開発・製造を継続しています。

同社は、既存エンジンの改良や性能向上に加え、次世代エンジンの研究開発にも積極的に取り組んでおり、ロシアの航空技術革新において重要な役割を担い続けています。ミル設計局やカモフ設計局といったヘリコプターメーカー、あるいはミコヤン設計局、ヤコヴレフ設計局といった固定翼機メーカーなど、ロシアの主要な航空機設計局とは長年にわたり密接な協力関係にあります。

クリーモフに関するより詳細な情報は、公式ウェブサイト（ロシア語または英語）で確認することができます。

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