クロアチア社会主義共和国

クロアチア社会主義共和国：ユーゴスラビア解体への序章

クロアチア社会主義共和国（Socijalistička Republika Hrvatska）は、第二次世界大戦後のユーゴスラビア社会主義連邦共和国（SFRJ）を構成した6つの共和国の一つでした。1944年の設立から1991年の独立までの約半世紀、クロアチア社会主義共和国は独自の政治的・経済的発展を遂げながらも、ユーゴスラビア連邦という枠組みの中で複雑な歴史を歩みます。本稿では、その歴史、政治、経済、そしてユーゴスラビア解体への影響について詳細に考察します。

設立と戦後復興

1944年5月9日、クロアチア人民解放国家反ファシスト委員会の決定により、クロアチア連邦国（Federalna Država Hrvatska）として発足。当初は社会主義共和国ではなく、ユーゴスラビア連邦国の一構成体でした。しかし、1945年11月29日、ユーゴスラビア連邦国がユーゴスラビア連邦人民共和国に改称されると、クロアチアもクロアチア人民共和国（Narodna Republika Hrvatska）と改称され、共産主義体制へと移行します。

この移行期において、土地改革が実施され、旧地主やカトリック教会の資産が国有化されました。戦後復興事業では、大規模な公共事業が展開され、若者によるボランティア活動が重要な役割を果たしました。これらの事業はユーゴスラビア連邦政府からの資金援助を受けて進められました。

自主管理社会主義と経済発展

1963年、クロアチア人民共和国はクロアチア社会主義共和国に改称され、スターリン主義からの脱却を明確化します。経済面では、自主管理社会主義（radničko samoupravljanje）という独自のシステムが導入されました。これは、国営企業において労働者が経営に参画し、利益の一部を分配するという制度です。このシステムはクロアチアで初めて導入され、後に他のユーゴスラビア構成国にも広がりました。

自主管理社会主義の下、クロアチアの経済は著しい発展を遂げます。特に1960～70年代には工業化が加速し、工業生産は急増しました。ザグレブはベオグラードを上回る産業都市へと成長し、アドリア海沿岸部の観光業も大きな収入源となりました。この時代、クロアチアは高い社会保障水準と低い犯罪率を実現し、戦後の荒廃から急速に復興しました。

政治構造と民族問題

政治面では、ユーゴスラビアという多民族国家の中で、クロアチア人はセルビア人に次ぐ多数民族でした。クロアチア出身のヨシップ・ブロズ・ティトーがユーゴスラビアの指導者であったことは、セルビアとクロアチアの民族対立を抑える上で一定の役割を果たしました。しかし、ティトーの死後、民族対立は再燃します。

1963年の憲法では、セルビアの支配権を明確に否定し、クロアチアは連邦政治に高いレベルで参加しました。しかし、セルビア人は軍や秘密警察で強い影響力を保持し、民族間の緊張は常に存在しました。「クロアチアの春」（1970～71年）と呼ばれる学生運動は、クロアチアの自治権拡大を求めるものでしたが、当局によって鎮圧されました。その後、1974年の憲法改正で構成共和国の権限が拡大されましたが、根本的な民族問題は解決されませんでした。

ティトー死後とユーゴスラビア解体

1980年のティトー死後、ユーゴスラビアは政治的・経済的危機に陥ります。冷戦終結の影響を受け、インフレが発生し、民族間の緊張は高まりました。セルビア民族主義の台頭と、コソボ問題などの民族紛争は、ユーゴスラビア解体の引き金となりました。

クロアチアでは、ユーゴスラビアからの独立を求める声が強まりました。1990年には、ユーゴスラビア共産主義者同盟の分裂をきっかけに、クロアチアは多党制に移行し、独立に向けた動きが加速します。セルビア人の抵抗や民族紛争も発生しましたが、最終的に1991年、クロアチアは独立を宣言します。

結論

クロアチア社会主義共和国は、自主管理社会主義という独自の経済システムと、複雑な民族問題を抱えながら、ユーゴスラビア連邦の中で存在しました。ティトーの死後、民族対立の激化とユーゴスラビアの崩壊は、クロアチア社会主義共和国の歴史の終焉を告げ、独立国家クロアチア共和国の誕生につながりました。その歴史は、ユーゴスラビア解体という大きな歴史的転換点において重要な意味を持つものです。

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