クロイツァー

クロイツァー（Kreuzer）は、19世紀後半までオーストリア、ドイツ、チェコ、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、スイスなど、広範囲にわたる地域で使用されていた歴史的な通貨単位です。特に額面の低い補助通貨として流通し、そのコインは主に銅貨や低品位の銀貨（銀含有率.200程度）で製造されていました。

クロイツァーの起源は、15世紀から16世紀にかけて南チロルのメラーノで製造された硬貨に遡ります。この硬貨の表面には十字架（ドイツ語でKreuz）が刻印されており、この特徴から「クロイツァー」という名称が付けられました。その後、クロイツァーは南ドイツを中心に広まり、多くの地域で日常的な取引に使用されるようになりました。

オーストリアでは、1857年まで、8ヘレル（Heller）＝4ペニヒ（Pfennig）＝1クロイツァーという複雑な換算レートが用いられていました。当時の主要通貨であったフローリン（Florin）に対しては、60クロイツァーが1フローリンに相当しました。1857年にオーストリアが十進法を採用した後は、100クロイツァーが1フローリンと定義され、この制度は1892年まで続きました。

ドイツでは、特に南部諸侯国でクロイツァーが広く使用され、オーストリアと同様の換算レートが用いられていました。ドイツにおいても、1871年の統一通貨マルク（Mark）導入までクロイツァーは重要な役割を果たしました。この統一によって、それまで地域ごとに異なっていた通貨制度が整理され、ドイツの経済が近代化する上での大きな一歩となりました。

ハンガリーでは、4クロイツァー硬貨が非常に少額の硬貨として広く知られていました。この4クロイツァー硬貨は、補助通貨単位フィレール（Fillér）の語源にもなっています。ハンガリー語ではフィレールが補助通貨の単位ですが、その語源はドイツ語の「4（vier）」に由来し、当時の経済的な結びつきや言語的な影響を示す興味深い例となっています。

クロイツァーは、その歴史的背景から見ても、当時の人々の生活や経済活動に深く根ざした通貨単位であったことがわかります。その名称、製造方法、換算レート、そして流通範囲は、ヨーロッパの複雑な歴史と文化を反映しており、通貨の歴史を研究する上で重要な要素となっています。また、クロイツァーは、地域ごとに異なる価値を持ちながらも、人々の日常生活や商取引を支え、ヨーロッパの経済発展に貢献したと言えるでしょう。

もう一度検索