クロウ・アジア美術館

テキサス州ダラスの賑やかなダウンタウン、文化施設が集積するアート地区の一角に、クロウ・アジア美術館（Crow Museum of Asian Art）は静かに佇んでいます。この美術館は、広大なアジア大陸の多様な芸術と文化に焦点を当て、古代から近現代に至る中国、日本、インド、朝鮮半島、ネパール、ベトナム、カンボジア、タイ、インドネシア、ミャンマー、フィリピンなど、幅広い地域の美術品や文化遺産を収集・展示しています。

美術館の誕生は、著名な不動産開発業者であるトラメル・クロウ氏と妻マーガレット氏の長年にわたる情熱的な収集活動に端を発します。夫妻は1960年代半ばにアジア美術との出会いを果たして以来、世界中を旅する中で特にアジアの魅力に深く惹きつけられました。その結果、彼らのコレクションには、紀元前3500年の古代から20世紀初頭までの中国、日本、インド、そして東南アジアの美術品が次々と加わっていきました。

当初、クロウ夫妻が収集した美術品は、トラメル・クロウ・センター内のパビリオンや他のオフィスビル、店舗、ホテル、さらには夫妻や子供たちの自宅など、様々な場所に分散して展示されていました。総数4000点以上に及ぶこれらの収集品を体系的に集め、著名な学芸員による詳細な調査・分析を経て、特に重要な569点が「クロウ・コレクション」として選定されました。夫妻は、この貴重なコレクションを次世代に継承し、広く一般に公開したいという強い願いから美術館の設立を決意しました。美術館が開館するにあたり、トラメル・クロウ・センター内の展示スペースは、美術品の展示に適した特別なギャラリーとして再設計・改修されました。夫妻の息子であるトラメル・S・クロウ氏もまた、クロウ家財団の理事長として、このコレクションの発展に深く関わっています。

1998年12月5日、クロウ・アジア美術館はダラスの住民や訪問者に向けて正式に開館しました。開館以来、美術館はアジア美術への理解と鑑賞を深めるための様々な活動を展開しています。

近年では、美術館は重要な変化を遂げました。2018年には、数年にわたる周到な計画のもと、大規模な改修と拡張工事が実施され、アート地区内での存在感をさらに高めました。この拡張計画は、以前の改修も手掛けた地元の建築事務所が主導し、建設は大手建設会社によって行われました。同年9月には、美術館の名称が「クロウ・コレクション」から現在の「クロウ・アジア美術館」に変更されました。これは、収蔵品やプログラムの範囲の拡大、そして地域社会からの幅広い支援を受けている現状を反映したものです。

美術館はまた、「Center for Contemplative Leadership」という取り組みを通じて、より広範な社会貢献を目指しています。このセンターは、「Charter for Compassion」という理念に基づき、マインドフルネスを取り入れた芸術教育プログラムやワークショップを提供しています。参加者は、マインドフルネスの実践を通じて自己認識を高め、他者への共感や慈悲心を育むことを目指します。

さらに、2019年1月には、テキサス大学ダラス校が美術館を取得することを発表しました。この合意には、テキサス大学ダラス校のリチャードソンキャンパスにクロウ美術館の別館を設置する計画も含まれており、美術館の活動範囲の拡大を示唆しています。

クロウ・アジア美術館の常設展示は、そのコレクションの質の高さで知られています。多くの収蔵品は、民間のディーラーやオークションを通じて個人的に入手されたものや、評価の高い他のコレクションを買い取ったものです。

美術館には3つの主要なギャラリーがあります。1階の第1ギャラリーは、巡回展が開催されていない期間は日本の美術品を中心に展示しています。隣接してロータス・ショップや美しい庭園も配されています。2階の第2ギャラリーと中2階は、中国の美術に特化した空間です。特に、古代から続く中国のヒスイ収集におけるクロウ・コレクションは、全米でも有数の質を誇り、美術館の中核をなしています。展示されるヒスイの多くは、伝統的なヒスイ彫刻が頂点を迎えたとされる18世紀、すなわち産業化以前の清王朝時代の作品です。また、このギャラリーでは、清王朝時代に皇帝や貴族、文人が愛用した精巧な鼻煙壷（嗅ぎタバコ入れ）も数多く見ることができます。

第2ギャラリーと第3ギャラリーを結ぶ鉄骨とガラス造りのスカイブリッジからは、ネイシャー彫刻センターやトラメル・クロウ・センター、そして「座った道教の神」の噴水など、周辺のアート地区の景観を一望できます。第3ギャラリーは、主に東南アジアやインドの美術品を展示しています。天井から吊り下げられた重厚なムガル時代の壁や、インドのガゼボ（あずまや）である「Baradari」が二つ設置されているのが特徴です。特に一つのバラダリは、元々インドの宮殿や庭園で休息や瞑想に使われたもので、このコレクションに加わるまで長年にわたりテキサス州東部のクロウ家の農場に置かれていたという興味深い歴史を持っています。

クロウ・アジア美術館は、常設展示に加え、多様なテーマの企画展や特別展も積極的に開催してきました。過去には、現代東南アジアの生活を捉えた写真展、清王朝の鼻煙壷に焦点を当てた展示、ベトナムの女性現代アーティストによる作品展、テキサス州内の個人収集家によるアジア美術展、日本の虎を描いた絵画展、ファッションデザイナーYeohleeの作品展、竹工芸と屏風の展示、韓国系アメリカ人画家Il Leeのボールペン画展など、多岐にわたる展示が行われています。これらの企画展は、来館者にアジア美術の多様性と新たな一面を紹介する重要な機会となっています。

美術館は、ダラスのセントラル・ビジネス地区に位置するトラメル・クロウ・センター内にあります。高さ209メートル、50階建てのこのビルは、ダラス有数の高層ビルであり、磨き上げられた花崗岩の外壁と美しい庭園を特徴としています。トラメル・クロウ・センターは、ネイシャー彫刻センター、ウィンスピア・オペラ・ハウス、ダラス美術館など、他の主要な文化施設が集中するダラスのアート地区の中核を成しており、クロウ・アジア美術館は、この活気ある文化エリアの重要な一員として、アジア美術の世界への扉を開いています。

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