クロスロード (1986年の映画)

クロスロード：魂をかけたブルースの旅路

1986年、ウォルター・ヒル監督によって世に送り出された映画『クロスロード』は、単なるロードムービーの枠を超えた、魂を揺さぶる音楽ドラマです。ブルースという音楽を深く掘り下げ、その魂の震えるような響きを、美しい映像と重厚な音楽で表現しています。

物語の中心にいるのは、ジュリアード音楽院で研鑽を積むクラシックギター奏者のユジーン。周囲からは将来を嘱望されるほどの高い技術を持つ一方、彼の心はブルースという音楽に強く惹きつけられていました。そんなある日、彼は伝説のブルースマン、「ブラインド・ドッグ・フルトン」ことウイリー・ブラウンの存在を知り、彼のもとを訪れます。

ウイリーは、ブルースの真髄を極めるための秘訣を握っていると噂される人物。その秘訣とは、ロバート・ジョンソンが悪魔との契約によって得たという「30曲目」のブルースでした。ユジーンは、ウイリーからその曲を教わるため、彼の故郷であるミシシッピ州ヤズーシティへの旅を共にすることになります。しかし、旅の資金は不足しており、二人はメンフィスから先は自力で旅を続けることになります。

旅の途中で、彼らは家出少女のフランセスと出会います。彼女の自由奔放な生き様は、ユジーンの心に新しい風を吹き込みます。しかし、フランセスは突如としてウイリーと共にロサンゼルスへ旅立ってしまい、ユジーンは深い悲しみに包まれます。この喪失感が、彼のブルースへの理解をさらに深めていくのです。

そして、ついに二人はロバート・ジョンソンが悪魔と契約したとされる十字路へとたどり着きます。そこには、「スクラッチ」という名の悪魔が待ち受けていました。ユジーンは、ウイリーの魂を救うため、スクラッチの手下である凄腕ギタリスト、ジャックとのギター対決を挑みます。それは単なる演奏勝負ではなく、魂をかけた真剣勝負でした。

ライ・クーダーが担当した音楽は、映画全体を彩る重要な要素となっています。劇中のギター演奏の多くはライ・クーダー自身によるものですが、スティーヴ・ヴァイもギタリスト役として出演しており、クライマックスのギター対決シーンでは、彼の卓越した演奏がユジーンの魂を表現しています。

ユジーンは、その圧倒的な技量とブルースへの情熱でジャックを打ち破り、スクラッチとの契約を無効とします。ウイリーの魂は解放され、二人はシカゴを目指します。しかし、ウイリーはシカゴを最後にユジーンと別れることを告げ、彼にブルースを伝えていくことを託します。

『クロスロード』は、単なる音楽映画ではありません。ブルースという音楽を通して、青春、友情、喪失、そして魂の救済といった普遍的なテーマが描かれています。若きギタリストの成長、ベテランブルースマンの葛藤、そして謎めいた悪魔との対決。これらの要素が絶妙に絡み合い、観客を深い感動へと誘います。

この作品は、1987年4月に日本で公開され、戸田奈津子による洗練された字幕が、その魅力をさらに高めました。キャッチコピーである『「伝説の曲」を求めて、青春の新しい旅が始まる』という言葉は、この映画のテーマを端的に表しています。

本作品は、その後も様々な形で影響を与え続けています。中島らもは『レッド・ネック・ブルース』という戯曲で、平本アキラは『俺と悪魔のブルーズ』という漫画作品で、それぞれクロスロード伝説をモチーフにした作品を発表しています。これらの作品からも、『クロスロード』が持つ普遍的な魅力と、その影響力の大きさを伺うことができます。

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