クロノバクター属

クロノバクター属菌：新生児・乳児への脅威と最新の知見

クロノバクター属（Cronobacter spp.）は、腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌です。かつては Enterobacter sakazakii（サカザキ菌）として知られていましたが、2008年に Cronobacter 属として分類が変更されました。本菌は、寒天培地上で特徴的な黄色いコロニーを形成します。

感染とリスク

クロノバクター属菌は、あらゆる年齢層で感染を引き起こす可能性がありますが、特に新生児や乳児においては重篤な疾患のリスクが著しく高まります。主な感染症として、菌血症、細菌性髄膜炎、壊死性腸炎などが挙げられます。乳児におけるこれらの感染症の致死率は、20～50%と報告されており、高い致死性を持つことが示されています。一方、成人では不顕性感染が多く、発症例は稀です。

汚染源と分布

クロノバクター属菌は、乳児用調製粉乳の汚染菌として広く知られています。しかしながら、その分布は粉ミルクだけに限られず、野菜や環境中からも分離される報告があり、環境中に広く存在すると考えられています。そのため、感染経路は多様であり、粉ミルクのみならず、様々な経路で感染する可能性があります。

発見と分類の歴史

かつては、クロノバクター属菌は Enterobacter cloacae の黄色いコロニーを形成する株の一つと考えられていました。しかし、Farmerらによる1980年の研究で、E. cloacae とは異なる独立した細菌種であることが明らかにされました。そして、グラム陰性細菌研究に多大な貢献をした坂崎利一博士に献名し、Enterobacter sakazakii と命名されました。その後、2008年に Iversen らによって Cronobacter 属が新設され、E. sakazakii は Cronobacter 属の複数の種に分類し直されました。この分類変更は、より正確な疫学調査やリスク評価を行う上で重要なステップとなりました。

今後の課題と対策

クロノバクター属菌は、高い致死率を有する危険な菌であり、特に新生児・乳児への感染予防は喫緊の課題です。乳児用調製粉乳の製造過程における衛生管理の徹底は不可欠です。また、環境中にも広く分布していることから、家庭内における衛生管理も重要です。今後、より詳細な生態解明や、効果的な予防・治療法の開発が求められています。特に、感染経路の特定と、効果的な殺菌・消毒方法の確立は、感染リスクの低減に大きく貢献すると考えられます。

参考文献

国立医薬品食品衛生研究所安全情報部 海外における Enterobacter sakazakii 関連情報
育児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakii に関するＱ＆Ａ(仮訳) 厚生労働省
Enterobacter sakazakii の再分類について 国立感染症研究所 病原微生物検出情報月報 Vol.30 p.135-136: 2009年5月号
須藤朋子、花形吾朗、「乳児用調製粉乳におけるクロノバクター属菌(以前のエンテロバクター・サカザキ)の危害と管理」『乳業技術』 62, 73-94, 2012, NAID 40019628102

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