クロムの同位体

クロムの同位体

元素であるクロム（Cr）には、天然に存在する複数の同位体が存在します。これらの同位体は、原子核に含まれる中性子の数が異なるため、質量数が異なります。

安定同位体

クロムには、観測されている中で安定な同位体が三つあります。これらは質量数によってクロム52（⁵²Cr）、クロム53（⁵³Cr）、クロム54（⁵⁴Cr）と呼ばれます。天然に存在するクロムの大部分はクロム52であり、その存在比はおよそ83.789%です。他の二つの安定同位体は、クロム53が約9.501%、クロム54が約2.365%を占めます。

放射性同位体

安定同位体の他に、これまでに19種類の放射性同位体が同定されています。これらの同位体は不安定であり、時間と共に他の元素に崩壊します。比較的長い半減期を持つものとしては、天然にも約4.345%存在するクロム50（⁵⁰Cr）があり、その半減期は1.8×10¹⁷年（18京年）以上と極めて長いことが知られています。また、クロム51（⁵¹Cr）は、約27.7日という、他の多くの放射性同位体と比較すると長い半減期を持ちます。

しかし、これらの比較的長寿命な同位体を除くと、他の多くの放射性同位体の半減期は非常に短く、そのほとんどは24時間以内、さらには1分にも満たないものが大半を占めています。また、クロムの同位体には、原子核のエネルギー状態が異なる核異性体も二つ存在します。

崩壊モードと質量数

クロムの同位体の質量数は、42から67の範囲にわたります。放射性同位体が崩壊する際の主なモードは、その質量数によって傾向が異なります。質量数が安定同位体の最小値である52よりも小さい同位体は、主に電子捕獲によって崩壊します。一方、質量数が52よりも大きい同位体は、主にベータ崩壊によって崩壊することが一般的です。

地質学への応用

クロムの同位体、特に安定同位体であるクロム53（⁵³Cr）は、同位体地質学において重要な役割を果たします。これは、⁵³Crが短寿命の放射性同位体であるマンガン53（⁵³Mn、半減期約370万年）のベータ崩壊によって生成されるためです。この⁵³Mn-⁵³Cr崩壊系は、特に太陽系初期の出来事を年代測定するのに適しています。

この崩壊系を利用することで、岩石や隕石の形成時期やその後の変成履歴を調べることが可能になります。クロムの同位体組成、特に⁵³Crの存在量や⁵²Crとの比率をマンガンの存在量と関連付けて分析することにより、対象試料が形成された際に存在した⁵³Mnの初期量を推定できます。

具体的には、マンガンとクロムの同位体組成比を分析することで、太陽系初期にアルミニウム26（²⁶Al）やパラジウム107（¹⁰⁷Pd）といった短寿命の放射性同位体が存在したことを強く示唆する証拠が得られています。また、小惑星における⁵²Cr/⁵³Cr比率やマンガン/クロム比率の多様性は、これらの天体が形成された後の早い段階で、母天体内部での⁵³Mn崩壊が進行した履歴を反映していると考えられています。

クロムの同位体に関するこれらの知見は、精密な質量分析によって得られており、その標準原子量は51.9961(6) uと定められています。

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