クロルデコン

クロルデコン：半世紀にわたる汚染と健康被害

クロルデコン（Chlordecone、ケポン(Kepone)としても知られる）は、有機塩素化合物の一種であり、かつては殺虫剤として広く使用されていました。その強力な殺虫効果と残留性の高さから、世界各地で使用されていましたが、深刻な健康被害と環境汚染を引き起こすことが判明し、現在では国際的に製造・使用が禁止されています。しかし、その影響は現在も世界各地で深刻な問題となっています。

開発から禁止まで：アメリカでの歴史

1950年代、[アメリカ合衆国]]のアライドケミカル社によって開発されたクロルデコンは、1960年代から1970年代にかけて、アメリカ国内および中南米、アフリカ、アジア、ヨーロッパ諸国へ輸出されました。バージニア州の工場では、従業員への深刻な健康被害が発生。生殖機能障害や神経系の異常などが報告され、1975年にアメリカ合衆国では使用が禁止されました。その後、1979年には国際がん研究機関]によって発がん性物質の可能性があると分類され、2001年のストックホルム条約でも規制対象となりました。アメリカでは[[ジェームズ川への工場排水による環境汚染も大きな問題となり、長期間にわたる訴訟合戦へと発展しました。この事件は、インディーロックバンドの名前にも使われるほど、社会に大きな衝撃を与えました。

安全性と健康への影響

クロルデコンは、経口摂取だけでなく、皮膚からも吸収される可能性があり、高い毒性を持ちます。[ラット]]に対する経口投与の半数致死量]は102mg/kg、ウサギに対する経皮投与のLD50は410mg/kgと報告されています。IARCはクロルデコンを発がん性物質グループ2B（[[ヒトに対する発がん性が疑われる）に分類しています。ライフサイエンスプロダクト社の従業員を襲った集団中毒事件は、その危険性を改めて示すものです。また、酸との接触や燃焼によって塩化[[水素]]などの有毒ガスが発生することも、危険性の高さに拍車をかけています。

環境への影響と生物濃縮

クロルデコンは、水生生物、特に魚類に対して強い毒性を示します。ニベ科の魚の96時間半数致死濃度(LC50)は0.0066mg/Lと非常に低く、環境へのリスクは非常に高いです。さらに、食物連鎖を通じて生物濃縮が起こるため、高次捕食者への影響も懸念されます。

フランス領アンティル諸島：終わらない汚染

フランスでは、1970年代にクロルデコンの使用が許可されました。しかし、1990年代にフランス本土での使用は禁止されたものの、フランス領アンティル諸島（マルティニーク島、グアドループ島）では、バナナ栽培におけるゾウムシ対策として1993年まで使用が続けられました。その結果、現在でも住民の健康被害（特に前立腺がん）や環境汚染（農地・沿岸域の汚染）が深刻な問題となっています。フランス政府の対応には批判も多く、2018年にはマクロン大統領が「思慮を欠いた結果」と発言するなど、責任問題も問われています。しかし、刑事責任については時効により捜査は終了しています。

まとめ：持続する脅威

クロルデコンは、その強力な毒性と残留性によって、製造中止後も長年にわたって健康被害と環境汚染を引き起こし続けています。アメリカでの生産中止から、フランス領アンティル諸島での使用継続、そして現在に至るまで、クロルデコン問題は、化学物質の危険性と環境問題への責任を改めて問いかける、重要な事例となっています。その影響は、未来の世代にも及び続ける可能性があり、持続可能な社会の構築に向けた取り組みの必要性を痛感させられます。

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