クローバー (小説)

島本理生『クローバー』

『クローバー』は、島本理生によって描かれた恋愛小説であり、当初は短編として発表されました。その後、『野性時代』にて2006年から2007年にかけて連載され、2007年に単行本として出版されました。

執筆背景

作者である島本理生は、当初この作品を連作短編集『一千一秒の日々』の延長として捉えていました。しかし、担当編集者のすすめにより連作短編化されたという経緯があります。
同時期に執筆していた『新潮』掲載の作品とは異なり、本作では深刻なトラウマを扱わず、軽妙なユーモアを意識した作風となっています。会話の描写に工夫を凝らし、軽快でユーモラスな作品を目指したと語っています。

連載当初は、主人公である華子が様々な男性と付き合い、弟の冬冶がそれに振り回されるという構想でした。しかし、物語が進むにつれて冬冶を中心とした物語へとシフトしていきました。

作者自身は、執筆当時精神的に苦しい時期であり、完成した作品に対してネガティブな感情を抱いていたことも明かしています。しかし、時を経て作品を客観的に見れるようになり、自己否定的な意見は薄れていったと語っています。

あらすじ

クローバー

優柔不断な冬冶と自由奔放な華子は双子の姉弟。大学進学を機に静岡から上京し共同生活を送る中、華子は合コンで知り合った金森佐和子と、冬冶はバイト先の眼科で一目惚れした奥村弘之と、それぞれ出会いを経験します。

猛獣使い

華子にストーカー行為をする細野有季の存在が明らかになり、冬冶は華子の身勝手さを痛感します。その後、細野の元交際相手である星野が現れ、華子は細野との関係を清算させようとします。

不機嫌な彼女たち

冬冶は進路について考える時期を迎え、同じ研究室の雪村容を意識するようになります。実験室のメンバーとの飲み会で、冬冶は雪村の意外な一面を知ることになります。

東京、夏の陣

夏休みも大学に通う冬冶は、試験の日に関数電卓を忘れ、華子に届けてもらうことになります。華子の美貌に研究室の女性陣が集まる中、雪村は不自然に席を外します。冬冶たちの従兄弟である史弥が上京し、冬冶たちの部屋に泊まることになり、華子は反発します。

水面下

史弥は風邪で寝込んでしまい、華子は落胆します。帰りに立ち寄った店で、華子は冬冶に雪村について問い詰め、冬冶も細野とのことについて聞き返しますが、華子は冬冶の元交際相手である朝比奈の名を告げます。雪村は風邪で寝込んだ冬冶を見舞い、「私はあなたが好きです」と告白します。

来訪者、いくつかの終わりと始まり

華子の協力により変貌を遂げた雪村。史弥が上京し冬冶たちの部屋を訪れることになり、華子は史弥のことを冬冶に押し付け行方をくらませます。冬冶は飲み会で雪村と史弥の会話を耳にし、雪村を追いかけ、二人きりで会いたいと告げます。

淡い決意

雪村と付き合い始めた冬冶は、進路について悩んでいました。静岡に帰省した冬冶は、実家から通える大学院へ進むことを決意します。帰京後、華子、雪村と共に細野の車で旅行に出かけ、大学院へ進むことを告げますが、自分の都合しか考えていないことを華子に指摘されます。

向こう岸へ渡る

雪村と順調に交際する冬冶は、金本佐和子からメールを受け取ります。雪村の父親が倒れたことを知った冬冶は、進路を変更しようと考えますが、父親に諭されます。自暴自棄になった冬冶は佐和子と会ってしまいます。後日、冬冶は雪村に許しを乞い、雪村は冬冶を試すための罠を仕掛けます。

登場人物

冬冶（とうじ）: 大学生。華子の双子の弟。優柔不断な性格。
華子（はなこ）: 女子大生。冬冶の双子の姉。ワガママな性格。
細野有季（ほその ゆうき）: 公務員。華子に一目惚れする。
雪村容（ゆきむら よう）: 冬冶と同じ研究室の学生。
奥村弘之（おくむら ひろゆき）: 華子がバイト先の眼科で一目惚れした男性。
星野（ほしの）: 細野の元交際相手。
朝比奈（あさひな）: 冬冶の元交際相手。
藤森（ふじもり）: 冬冶の大学の同級生。
金本佐和子（かなもり さわこ）: 華子の知り合い。
史弥（ふみや）: 冬冶と華子の従兄弟。

作品の評価

本作は、ユーモラスな会話劇と予測不能な展開が魅力であり、読者を飽きさせないエンターテイメント作品として評価されています。

書誌情報

単行本：2007年11月、角川書店 ISBN 978-4048738170
文庫本：2011年1月25日、角川文庫 ISBN 978-4043885039

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