クンねずみ

『クンねずみ』

宮沢賢治の短編小説『クンねずみ』は、生前に発表されなかった作品であり、幻の寓話とも言える作品です。この物語は、下水川のほとりに住む威張り屋の鼠、クンの物語であり、彼の嫉妬と虚栄心を描写しています。実際の発表は賢治が亡くなった後に行なわれ、長らくタイトルについて議論が続きました。

設定と歴史的背景

当初、作品のタイトルは「クンねずみ」というものでしたが、後に文体の修正を受けて「クねずみ」とされました。これにより、作者没後から現在に至るまで、タイトルが「クねずみ」として流通しました。しかし、1973年に発行された『校本 宮澤賢治全集』第7巻では、原稿調査を経た結果、もとの「クンねずみ」が再度採用され、その後の版でもこれが踏襲されています。このように、『クンねずみ』はそのタイトルや内容においても注目され続けています。

あらすじ

物語の舞台は、下水川のほとり。ここに住むクンねずみは、自身の優越感を持つ一方で、他の鼠や昆虫たちに対する強い嫉妬心を抱いています。彼は他者が難しい言葉を使ったり、賞賛を受けたりすると、すぐに気を悪くし、咳払いで相手を威嚇します。ある日、タねずみが訪れ、ユニークな語句を使うと、クンは嫉妬心から彼を追い出します。その後、クンは『ねずみ競争新聞』を手に取り、他の鼠たちの物語を楽しむことにしますが、ここでも妬みが生じ、意地悪なツェねずみの末路に喜びを覚えます。

しかし、その後「新任鼠会議員 テ氏」の記事に目が止まり、再び嫉妬にかられるクン。気分転換に散歩に出かけても、結局は他者の話を聞いてまたも嫉妬心を募らせ、彼の心の中は荒れるばかりです。やがて、耳にしたテねずみの演説を聞いて、クンはついに堪忍袋の緒が切れ、咳払いで怒鳴り散らします。その声を聞いたテねずみは、手下を使ってクンを捕らえ、公開の場で「クンねずみは暗殺されるべき」だと宣告します。

物語のクライマックス

クンは縛り上げられ、絶望の中で泣き叫びますが、そこに猫大将が現れ、場は混乱に陥ります。所有者たちは恐れをなして逃げ去り、結局クンは猫大将のおかげで助かります。猫はクンを自宅に連れて帰り、子猫たちの家庭教師役を命じますが、状況はさらに悪化します。

クンが出した算数の問題を素早く解かれてしまったことで、彼の虚栄心は再び傷つきます。これに腹を立てた子猫たちは、最終的にクンを食べてしまうという悲劇が待っています。このクライマックスは、クンの嫉妬や自尊心がもたらした結果であり、教訓的な要素も含まれています。

結論

『クンねずみ』は、単なる寓話であると同時に、人間社会における自己中心的な態度や嫉妬の危険性を示唆する作品です。この作品を通じて、宮沢賢治は我々にコミュニティや共生の重要性を教えているとも言えるでしょう。

もう一度検索