グラン・サッソ国立研究所

グラン・サッソ国立研究所（LNGS）

グラン・サッソ国立研究所（Laboratori Nazionali del Gran Sasso; LNGS）は、イタリア中部のグラン・サッソ山脈の地下深くに建設された、世界最大規模の地下研究所です。素粒子物理学、原子核天体物理学などの研究分野において、国際的な共同研究の拠点として重要な役割を果たしています。研究所は国立核物理学研究所（INFN）によって運営され、最寄りの都市はラクイラとテーラモ、ローマからは約120kmの距離に位置しています。

研究の目的と特徴

LNGSの主な使命は、その優れた低バックグラウンド環境と設備を活用し、素粒子天体物理学や原子核天体物理学、および関連分野における最先端の実験研究を推進することです。研究所は、宇宙線による影響を極限まで低減するために、山岳の地下深く、およそ1400mもの岩盤に覆われた場所に建設されています。この深さは、約3400メートル水当量（mwe）の遮蔽効果をもたらし、宇宙線由来のノイズを大幅に抑制することで、微弱な信号を捉える実験を可能にしています。

LNGSは、モダーヌ地下研究所、カンフランク地下研究所、ボールビー地下研究所といった他のヨーロッパの主要な地下研究所とともに、共同グループILIASに所属し、国際的な協力体制を築いています。

施設構成

研究所は、グラン・サッソ・エ・モンティ・デッラ・ラガ国立公園内に位置する地上施設と、グラン・サッソ・トンネルに隣接する広大な地下施設から構成されています。1989年に最初の主要な実験が開始されて以来、施設は拡張を続け、現在では世界最大の地下研究所となっています。

地下施設には、主に3つの巨大な実験ホールがあり、それぞれ幅約20m、高さ約18m、長さ約100mの筒型ヴォールト天井となっています。これらのホールを合計すると、床面積は約6,000平方メートル、容積は約95,100立方メートルに達します。さらに、より小さなスペースや様々な連絡トンネルを含めると、施設全体の床面積は17,800平方メートル、容積は180,000立方メートルにもなります。

主要な研究プロジェクト

ニュートリノ研究

LNGSでは、ニュートリノに関する最先端の研究が活発に行われています。特に注目されるのは、CERN（欧州原子核研究機構）から730km離れたLNGSに向けて照射されるニュートリノビームを用いた実験です。この実験では、OPERA検出器とICARUS検出器を用いて、ニュートリノ振動現象の解明を目指しています。

2010年、OPERA実験は、ミューニュートリノがタウニュートリノに変化する現象を初めて観測することに成功しました。この発見は、ニュートリノが質量を持つことを示唆する重要な証拠であり、素粒子物理学の標準模型に修正を迫る可能性を秘めています。

また、CUORE実験では、ニュートリノがマヨラナ粒子なのかディラック粒子なのかという、素粒子物理学における重要な問いに取り組んでいます。この実験では、古代ローマ時代の難破船から回収された鉛を用いて検出器を遮蔽することで、放射線ノイズを低減しています。

2011年には、OPERA実験において、ニュートリノが光速よりも速く移動している可能性を示唆する結果が発表され、大きな話題となりました。しかし、その後の調査によって、この結果は実験装置の不具合による誤りであることが判明しました。

2014年、Borexino実験は、太陽の主要な陽子-陽子核融合反応によって生成されるニュートリノを直接測定することに初めて成功しました。この結果は、太陽ニュートリノ振動の理論を検証する上で重要な成果であり、太陽のエネルギー生成メカニズムに関する理解を深める上で大きく貢献しています。

その他の実験

LNGSでは、ニュートリノ研究以外にも、暗黒物質の探索や、希少事象の観測など、様々な分野の実験が行われています。

まとめ

グラン・サッソ国立研究所は、世界最大規模の地下研究所として、素粒子物理学、天体物理学における最先端の研究を支える重要な拠点です。その優れた低バックグラウンド環境と国際的な共同研究体制は、未解明の物理現象の解明や、宇宙の起源と進化に関する理解を深める上で、今後も重要な役割を果たすでしょう。

参考文献

Gran Sasso National Laboratory
CNGS - CERN neutrino to Gran Sasso
ILIAS

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