グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ

グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ (G6PD)

グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ（Glucose-6-phosphate dehydrogenase, 略称: G6PD）は、生物の細胞内に広く存在する酵素の一つです。特に、細胞の代謝において重要な役割を担うペントースリン酸経路の初期段階を触媒することで知られています。

機能

G6PDの主要な機能は、細胞内で様々な生化学反応に必要な還元力を持つ分子、NADPH（ニコチンアミド アデニン ジヌクレオチド リン酸の還元型）を供給することにあります。このNADPHは、細胞の恒常性維持に多岐にわたる貢献をしています。

1. 酸化ストレスからの防御: NADPHは、細胞を活性酸素種などによるダメージから守る抗酸化機構において中心的な役割を果たします。NADPHは、主要な抗酸化成分であるグルタチオンが機能するために必要な還元型グルタチオンを維持する酵素、グルタチオン還元酵素の補酵素として働きます。これにより、酸化ストレスが増大した状況でも、細胞は有害な酸化物質を無毒化し、細胞の機能や構造が損なわれるのを防ぐことができます。
2. 生合成への貢献: 細胞内の特定の組織、例えば肝臓、乳腺、脂肪組織、副腎などでは、脂肪酸やイソプレノイド、ステロイドといった様々な脂質分子や、その他の化合物の合成が活発に行われています。これらの合成反応の多くは、還元剤としてNADPHを必要とします。G6PDによって効率的に生成されるNADPHは、これらの生合成プロセスを円滑に進める上で不可欠な要素です。

触媒反応

G6PDは、ペントースリン酸経路における最初の段階として、以下の化学反応を触媒します。この反応により、NADPHが生成されます。


D-グルコース-6-リン酸 + NADP+ ⇌ D-グルコノ-1,5-ラクトン-6-リン酸 + NADPH + H+


具体的には、D-グルコース-6-リン酸とNADP+を基質として取り込み、D-グルコノ-1,5-ラクトン-6-リン酸、NADPH、そして水素イオン（H+）を生成します。この反応は可逆的ですが、細胞内の状況に応じて生成物側へ進行することが多いです。

分布

G6PDは、生物界に極めて広く分布している酵素です。ヒトや他の動物はもちろんのこと、菌類、そしてバクテリアに至るまで、多くの生命体でその存在が確認されています。これは、NADPHの供給が生物にとって普遍的に重要な機能であることを示唆しています。高等植物においてもG6PDは複数種類存在し、細胞質基質だけでなく、光合成を行う葉緑体（プラスチドストロマ）や、特定の代謝に関わるペルオキシソームといった細胞内の異なる場所に存在することが報告されています。これにより、植物は細胞内の各コンパートメントの代謝ニーズに応じて必要なNADPHを供給しています。

関連疾患

G6PDをコードする遺伝子に変異が生じると、酵素の機能が低下したり、全く機能しなくなったりすることがあります。ヒトの場合、このような遺伝的な欠損はグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症として知られています。これはX染色体に存在する遺伝子の変異によって起こる遺伝性疾患であり、特に赤血球がNADPHを生成する能力が著しく低下します。その結果、通常は無症状でも、特定の薬剤（一部の抗菌薬や抗マラリア薬など）や、ソラマメのような特定の食品（これがソラマメ中毒として知られる溶血の原因となります）を摂取したり、感染症にかかったりすることで、赤血球が強い酸化ストレスにさらされ、非免疫性の溶血性貧血を引き起こす可能性があります。この疾患は、特にマラリアが流行している地域で比較的高い頻度で見られます。

関連項目

ペントースリン酸経路
NADPH
酸化ストレス
グルタチオン
グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症
ソラマメ中毒

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