グルーのパラドックス

グルーのパラドックス

グルーのパラドックスとは、帰納法に関連する興味深い哲学的課題です。アメリカの哲学者ネルソン・グッドマンによって提唱され、彼の論文「帰納法の新たな謎」において詳細が述べられています。この概念は、グッドマンの著書『事実・虚構・予言』の中で説明されており、さまざまな意味を持つ「グルー」という造語を通じて、帰納的推論の問題を探求しています。

グルーの定義とその意義

グルー（grue）という用語は、緑を表す「グリーン」（green）と青を表す「ブルー」（blue）を組み合わせた造語です。この言葉は、「2049年12月31日までに観察される緑の物体」と「2050年1月1日以降に観察される青の物体」の両方を指すものとして定義されています。重要なのは、グルーという概念は時間によって変化する定義を持たない点です。

具体的には、グルーに関連する命題を考えた場合、例えば「エメラルドは緑である」という命題は、過去の観察に基づいている一方で、「エメラルドはグルーである」とする命題も同時に真実である可能性があります。1990年代の段階で得られた観察データがこの両方の命題を支持するため、双方は等しく確からしいとされます。しかし、2050年以降に初めて観察されるエメラルドの色は、この2つの命題によって異なる予測がなされるため、この矛盾がグルーのパラドックスを生み出します。

懐疑主義と斉一性原理

このパラドックスは、デイヴィッド・ヒュームの懐疑的な視点を反映したものでもあり、ヒュームが示した懐疑主義の深刻さを改めて教えてくれます。ヒュームは、帰納法が過去の経験に基づいて未来を予測する方法でありながら、その予測が正確である理由はないと指摘しました。グルーのパラドックスは、ヒューム的な懐疑を避けるために採られる斉一性原理（すでに観察されたものは未知のものと似ているという考え方）についても問題を提起します。

斉一性原理を受け入れたとしても、どのような斉一性を考慮するかによって、様々な予測が成立する可能性があるため、検証や予測の信頼性が議論を呼ぶことになります。たとえば、「エメラルドは緑である」という斉一性があり得る一方で、「エメラルドはグルーである」という斉一性もまた成り立つため、各種の事例に基づいた予測は異なってしまいます。

投射可能性の問題

このように、我々は意識下で投射可能な述語（例：緑）とそうでない述語（例：グルー）を区別し、投射可能な述語のみを帰納法に応用しようとします。しかし、投射可能性を正確に定義し、投射可能な述語だけが帰納に使える理由を示すことは、非常に難しい課題です。このことから、グルーのパラドックスは単なる理論的な問題にとどまらず、帰納法の論理を再検討させる重要なテーマであることが分かります。

参考文献

• - 戸田山和久『科学哲学の冒険 : サイエンスの目的と方法をさぐる』日本放送出版協会、2005年。ISBN 4-14-091022-4。

このように、グルーのパラドックスは帰納法と観察の本質についての哲学的な考察を促し、我々がどのように知識を築いていくかに対する疑問を投げかけています。

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