グレゴリウス14世 (ローマ教皇)

グレゴリウス14世（1535年2月11日 - 1591年10月16日）は、16世紀後半にローマ教皇を務めた人物です。本名はニッコロー・スフォンドラーティといい、イタリアのクレモナ出身です。教皇としての在位期間は1590年から1591年と非常に短いものでしたが、その間に重要な政治的決断を行いました。

生涯

ソンマ・ロンバルドで生まれた彼は、1590年12月5日にウルバヌス7世の後を継いで教皇に選出されました。修道者としての高い評価を得ていましたが、在位期間が短かったため、大きな事件は少なかったとされています。しかし、特筆すべきは、スペイン王フェリペ2世とマイエンヌ公シャルル・ド・ロレーヌの強い働きかけにより、フランス王アンリ4世を異端者および迫害者として破門したことです。さらに、教皇はフランスへの侵攻を準備させました。これは、歴代の教皇がとってきたフランスとスペインの勢力均衡政策を放棄したと見なされ、当時大きな波紋を呼びました。教皇の選出にはスペイン枢機卿団の強い支持があり、そのことが反フランス的な行動に繋がったと考えられています。

グレゴリウス14世は、スペインによるフィリピン統治にも深く関与しました。1591年、スペイン人によるフィリピン先住民の奴隷的扱いを禁じ、これに違反した場合は破門するという厳しい措置を取りました。この決定は、1589年にフェリペ2世が出した王室令を踏まえたものでした。当時のヨーロッパ、特にカトリック諸国はアメリカ大陸やアジアへの進出を積極的に進めており、歴代の教皇はこれらの地域において強い影響力を持っていました。その中で、グレゴリウス14世が先住民の権利や自由を尊重するよう命じたことは、特筆すべき点です。形式的なものではありましたが、先住民の人権保護に配慮したことは評価に値します。

また、1591年には大赦の布告文を発布しました。この布告文は、日本の長崎で隠れキリシタンが伝承してきた「ドソンのオラショ」の基礎になったとされています。「ドソン」とはルソンのことであり、フィリピンから訪れたカトリック宣教師がこの布告文をもたらした可能性が高いと考えられています。

伝記によると、グレゴリウス14世は時折、笑いが止まらなくなる癖があったようです。戴冠式でもその癖が出てしまったという逸話が残っています。教皇は、70gもの胆石が原因で亡くなり、その跡をインノケンティウス9世が継ぎました。

グレゴリウス14世の短い在位期間は、そのスペイン寄りの政策と、先住民保護への意識が対照的に際立つ時期でした。彼の行動は、当時の国際政治と宗教的権威の複雑な関係を示しています。

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