グレート・トレック

グレート・トレックの概要

グレート・トレック（Great Trek）は、1830年代から40年代にかけて、英領ケープ植民地からボーア人たちが大規模に内陸へ移住したことを指します。この移住は、現在の南アフリカ共和国北部に彼らが新たに定住する結果をもたらしました。グレート・トレックは、オランダによるケープ植民地の開発以降、ボーア人のアイデンティティと歴史に大きな影響を与えました。

ボーア人の形成と前史

17世紀、オランダがケープ植民地を建立したことで、オランダ人の移住者が徐々に増え、彼らは「ボーア人」と呼ばれる民族集団を形成しました。ボーア人たちは、ケープタウンを拠点にして先住民であるコイコイ人を排除し、内陸へと進出しました。多くのボーア人は大規模な農園を経営し、自給自足の生活を営んでいました。這い上がる経済に対して、オランダ東インド会社の権力は弱く、ボーア人はほぼ自由に内陸に移動することができました。

しかし、1795年にイギリスがケープ植民地を占領し、ボーア人の扱いは二級国民となりました。イギリス政府の政策はボーア人の内陸進出を制約し、農業の発展を妨げました。さらに、アフリカ人民族への態度が異なり、ボーア人の農業経営は困難になりました。これに対して労働力不足が発生し、ボーア人たちの間には不満が高まりました。

グラハムズタウン会議と移住決定

1834年、東ケープのボーア人代表たちがグラハムズタウンで集まり、イギリスからの独立と移住を決定しました。移住先はズールー王国との交渉を経て、最終的にポート・ナタール付近とされました。移動経路では、グレート・フィッシュ川以北には軍事力を持つコーサ人が居たため、オレンジ川を越え、ドラケンスバーグ山脈を越えるルートが選ばれました。

移住の開始

1835年に先発隊が出発し、翌年には本隊が続きました。ケープ植民地のボーア人の約10%にあたる12,000人が北へ向かいました。彼らはオレンジ自由州のウィンバーグで集結し、今後の行動を協議しました。この時期、ボーア人たちは「フォールトレッカーズ」と名乗り、牛車を用いてゆっくりと北上しました。

ンデベレとの衝突

ンデベレ人との小競り合いが続く中、1836年にはボーア人の攻撃が始まりました。火力に優れたボーア人がンデベレを圧倒し、最終的に彼らを撃破します。これにより、ンデベレ人は内陸部へと逃れ、マタベレランドに新たな王国を建国しました。

ズールー王国との戦争

ボーア人本隊はドラケンスバーグ山脈を越えて1838年にナタールに到達しました。ズールー王ディンガネとの間に大きな争いが生じ、ボーア人は犠牲者を出したものの、ブラッド・リバーの戦いで大勝を収めました。これによってボーア人はナタール共和国を建国します。

ナタール共和国の衰退

しかし、ナタール共和国成立後の土地分配を巡る争いが発生し、イギリスが介入する口実を与えてしまいました。1843年にナタール共和国は降伏し、消滅します。

新たな政府の成立

ナタール共和国の崩壊後、ボーア人たちは新たな政府を結成し、オレンジ自由国とトランスヴァール共和国が成立しました。これにより、ボーア人たちの移動は終了し、グレート・トレックは終わりました。

歴史的な影響

グレート・トレックはボーア人にとって「出エジプト」のような重要な出来事であり、この経験は後のアフリカーナー民族の形成に影響を与えました。一方で、南アフリカの新しい入植地域においては、黒人住民が圧倒的に多数を占める中で白人入植者たちが自身の選民思想を育んでいき、後のアパルトヘイト政策につながることになります。

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