グロッシュの法則

グロッシュの法則の概要とその影響

グロッシュの法則（Grosch's law）は1965年にハーバート・グロッシュによって提唱された、コンピュータの性能と価格に関する法則です。この法則が示すのは、「コンピュータの性能は価格の2乗に比例する」という経験則です。この法則に基づくと、例えば50,000円のコンピュータと100,000円のコンピュータの性能比は25対100となります。つまり、予算が許す限りより高価なコンピュータを購入した方が、コストパフォーマンスが優れているという考え方です。

個人の利用においては、必ずしも高性能な機種が必要というわけではありませんが、タイムシェアリングシステムのように複数人でコンピュータを共有する場合には、皆の予算をまとめて1台の高性能機器を購入した方が効率的なことが示されています。

一方で、グロッシュの法則にはその逆の主張をする「ポラックの法則」というものがあります。これは、特に高性能なコンピュータが必要とされる場合に、計算機の性能が価格に従わない可能性を示唆しています。牧野淳一郎の研究によると、グロッシュの法則は特定の条件下では成り立つものの、Cray-1のような超高性能機を超えると適用性が薄れるということが指摘されています。具体的には、より高い性能を達成するためには、複数の演算装置を用いて並列計算を行う必要があり、その結果、制御回路が複雑化してしまうからです。

1999年には、性能の向上が価格に対して2乗ではなく逆2乗となるというポラックの法則が成立しました。これは、高性能機器の設計における複雑さが価格設定にも影響を及ぼすことを示しています。

また、他の研究者もグロッシュの法則に対してさまざまな視点を提供しています。高橋茂は、「この法則はあくまで経験則であり、特に第3世代のコンピュータではメーカーがこの法則に従って価格を設定していた可能性がある」と述べています。さらに1970年代後半から、半導体の量産化に伴い小型機の価格が下がる一方で大型機の価格が維持される中で、機器性能が実際に価格に比例するような現象も確認されています。

特に2000年頃までは、パーソナルコンピュータのような量産効果によって、低価格帯でも高性能を実現するモデルが登場し、グロッシュの法則から外れる動きが見られました。スーパーコンピュータは、初期には量産の効果が薄かったものの、超並列化技術が進展することで、現在では富岳に代表されるように量産技術を活用した高性能化が実現しています。

グロッシュの法則と似たような概念として、オペレーションズ・リサーチの分野である「ランチェスターの法則（第2法則）」が挙げられます。これは、同等の兵士や兵器の性能を持つ場合、兵士5人対10人の戦力比が25対100というように、数の優位が戦力に与える影響を示しています。

このように、グロッシュの法則は単なる理論に留まらず、コンピュータ産業や購入戦略に多大な影響を与える法則として現在も注目されています。

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