グロリア (1980年の映画)

グロリア(Gloria)



1980年に公開されたアメリカ合衆国アクション映画です。監督・脚本はジョン・カサヴェテス、主演はジーナ・ローランズ

裏社会の追手から逃れる少年と、図らずも彼を匿うことになった孤独な中年女性が繰り広げる逃避行、そしてその中で育まれる絆を描いた物語です。

国際的な評価も高く、ヴェネツィア国際映画祭では最高賞である金獅子賞を受賞しました(ルイ・マルの『アトランティック・シティ』と同時受賞)。主演のジーナ・ローランズは、その演技で第38回ゴールデングローブ賞のドラマ部門主演女優賞、および第53回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされています。ローランズが演じる主人公の衣装は、ファッションブランドのエマニュエル・ウンガロが手掛けました。1999年にはシャロン・ストーン主演でリメイク版も製作されています。

あらすじ



舞台はニューヨーク。ギャング組織の会計を担当していた会計士ジャックは、同時にFBIに情報を提供しており、それが露見したことで一家全員が命を狙われます。追手から逃れるため、サウス・ブロンクスの安アパートに隠れたジャック一家のもとに、ギャングの刺客が迫ります。

一家の危機を悟ったジャックは、たまたま隣室からコーヒーを借りに来た独身女性グロリア・スウェンソンに、6歳の息子フィルを託します。子供嫌いを公言していたグロリアでしたが、緊迫した状況に押され、この突然の頼みを聞き入れます。フィルは、組織にとって重要な会計情報が書かれた手帳を「大事な聖書だ」と言い聞かされ、肌身離さず持たされていました。グロリアがフィルを自室に連れ帰った直後、隣室から銃声と部屋を破壊する音が響き渡ります。ジャック一家は皆殺しにされたのです。

混乱の中、グロリアはフィルを連れてアパートを脱出します。グロリアはフィルに「おまえの親を殺したのはあたしの知り合いだ」と告げ、悲しみにすがるフィルを突き放そうとします。実はグロリアは若い頃、組織の後援を受けるショーガールであり、組織のボス、トニー・タンジーニのかつての愛人でもありました。今の「グロリア・スウェンソン」という名前すら、組織が彼女に与えた偽名だったのです。しかし、子供嫌いを装いながらも、グロリアはフィルに「靴下を履き替えろ」と気遣いを見せます。

二人はグロリアの別邸に逃げ込み一夜を過ごしますが、翌朝にはグロリアがフィル誘拐犯として指名手配されていることを知ります。また、組織はグロリアの居場所を突き止めていました。別邸を脱出した二人を追手が襲いますが、隠し持っていた拳銃で撃退し、辛くも逃れます。

グロリアはフィルのために、偽りの葬儀を提案し、墓地で家族に別れを告げさせます。フィルは大人びた様子で「僕は男だ、何だってできる」と自分に言い聞かせます。

追手をかわしながら安宿を転々としますが、グロリアはフィルを匿い続けることに限界を感じ、一度はブロードウェイの路上に置き去りにします。しかし、すぐに後悔し、フィルを探し回ります。フィルはギャングの手下の父親を持つ少年に匿われていましたが、まさにグロリアが見つけた目の前で、その手下に連れ去られてしまいます。グロリアは迷わず家に乗り込み、フィルと手帳を取り戻し、地下鉄で逃走。ミッドタウンの高級ホテルに立てこもります。グロリアはフィルに、自分の故郷であるピッツバーグへの逃亡を提案します。

フィルはグロリアに芽生えた母性のような感情に気づかず、ギャングと銃で戦うグロリアに疑問を投げかけます。「手下を撃つより組織と戦うべきだ」。フィルの純粋な言葉を聞いたグロリアは、この逃避行に決着をつけることを決意します。トニーに自ら連絡を取り、手帳を持ってアジトに向かうことを告げます。所持金すべてを下ろし、フィルに100ドル札の束を渡したグロリアは、3時間半後に自分が戻らなければ、一人でピッツバーグへ行くように言い残し、ホテルを後にします。

組織のアジトでトニーと対峙したグロリアは、手帳を差し出し、フィルに手を出さないことを確約させようとします。掟を破ったグロリアを非難するトニーに対し、グロリアは「あなたたちにも母親がいた。私は母親になれなかった。でも、今、あの子が愛しい」と、フィルへの情を吐露します。かつてグロリアとの間に家族を持とうとしていたトニーは言葉を失います。グロリアは「殺すならひと思いに」と告げ、席を立ち去り際、用心棒を射殺してエレベーターに飛び乗ります。手下たちの激しい銃撃が、降りていくエレベーターに浴びせられます。

一方、フィルは約束通りホテルで待ち続けた後、一人でチェックアウトし、長距離列車でピッツバーグに到着します。駅でビジネスマン風の男性に声をかけられたフィルは、「パパやママは天国」だと答えます。男性は墓地行きと早合点し、場所を教えます。グロリアの死を確信していたフィルは、タクシーで墓地へ向かい、墓石の前で「グロリア、会いたいよ」とつぶやきます。そのとき、運転手付きのリムジンが止まり、喪服を着た老婦人が降りてきます。それは、指名手配から逃れるために変装したグロリアでした。二人は固く抱き合い、本当の親子の再会のように喜びます。

主な登場人物



グロリア・スウェンソン: ジーナ・ローランズ。子供嫌いを公言する孤独な女性。かつてギャングの元情婦であり、拳銃の扱いに長けています。当初はフィルを疎ましく思いますが、次第に強い情を抱くようになります。
フィル・ドーン: ジョン・アダムズ。6歳の少年。ギャングに一家を殺害され、グロリアに託されます。グロリアと行動を共にするうちに彼女を慕うようになります。年齢に似合わず、大人びた一面も見せます。
* トニー・タンジーニ: バジリオ・フランチナ。組織のボス。かつてグロリアと関係がありました。

評価



日本公開時、映画監督の黒澤明はパンフレットに寄稿し、「この映画の美しさは生まれつきのものだと思います」とカサヴェテス監督を賞賛しました。
映画評論サイトRotten Tomatoesでは、27件の評論に基づき93%の支持率を得ており、平均評価は10点満点中7.11点です。Metacriticでも、12件の評論で平均68点を獲得しています。

その他



映画ジャーナリストの猿渡由紀によるジーナ・ローランズへのインタビューによると、本作の脚本は当初別の女優が主演する想定で書かれましたが、その女優が断ったためローランズが主演することになったとのことです。ローランズ自身はこの作品を気に入っていますが、夫でもあるジョン・カサヴェテス監督は「これは単なるファンタジーだ。馬鹿げた話だ」と、あまり乗り気ではなかったと語っています。

リメイク版として、1999年にシャロン・ストーン主演で同名映画が公開されています。

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