グンナー・スヴァエティチン

グンナー・ニルス・トイヴォ・スヴァエティチン：色覚研究のパイオニア

グンナー・ニルス・トイヴォ・スヴァエティチン（1915年1月13日-1981年3月23日）は、フィンランド生まれのスウェーデンとベネズエラの生理学者です。彼は、網膜の電気生理学的研究において画期的な発見を行い、20世紀の色覚研究に大きな影響を与えました。彼の業績は、ヤング＝ヘルムホルツの三色説を実験的に裏付ける最初の生物学的証拠を提供した点、そして視覚における反対色過程を示す重要な発見をした点に集約されます。

幼少期と教育

スヴァエティチンは、1915年、フィンランドのカーリス（カリャー）で、測量技師の父と妻の間に生まれました。ヘルシンキの学校を経てヘルシンキ大学医学部を卒業後、研究者としての道を歩みます。在学中は、後にノーベル賞を受賞するラグナー・グラニトと出会い、共同研究を行うことになります。フィンランド冬戦争の勃発により徴兵された経験も持ちます。

研究活動：網膜電位とS電位

グラニトとの共同研究を通して、スヴァエティチンは視覚の電気生理学的研究のための画期的な技術を開発しました。極小電極を用いて、網膜から脳への神経信号の記録に成功したのです。この技術は、色覚研究において重要な役割を果たしました。

彼の最も重要な発見の一つは、1953年に魚の網膜における特定のニューロンが光刺激によって過分極すること（脱分極ではなく）を発見したことです。この現象は、その後「S電位（S-potential）」と名付けられ、それまでのニューロンに関する常識を覆すものでした。従来、ニューロンはシナプス入力によってのみ脱分極すると考えられていたからです。

初期には、このS電位の発生源が錐体細胞であると考えられていましたが、後の研究で、網膜の水平細胞がその起源であることが明らかになりました。この発見は、視覚における拮抗作用を説明する上で重要な役割を果たし、網膜介在ニューロン研究の基礎を築きました。水平細胞の発見は、視覚の理解と神経ネットワーク理論の発展に大きく貢献しています。

さらに、スヴァエティチンは、網膜ニューロンが赤、緑、青の3つの異なる波長の光に特異的に反応することを示しました。これは、1802年にヤングが提唱した三色説を初めて生物学的に実証した画期的な成果であり、色覚研究における歴史的な転換点となりました。彼は、特定の色組み合わせの中心と周辺における拮抗作用を示す、黄青および赤緑の反対色細胞の存在も明らかにしました。Gouras（1982）は、この「神経色の対立性の発見」を20世紀の色覚研究における最も重要な発見の一つと評価しています。

国際的な協働とS電位

スヴァエティチンは、ベネズエラ科学研究所において研究室を主宰し、晩年まで研究を続けました。彼は、日本の研究者とも深く交流がありました。東北大学の教授であった本川弘一は、スヴァエティチンの発見した電位を、彼の頭文字をとって「S電位」と命名することを提唱し、それが国際的に定着しました。また、名古屋大学の御手洗玄洋は、文部省在外研究員としてベネズエラに留学し、スヴァエティチンとの共同研究を行いました。

まとめ

グンナー・ニルス・トイヴォ・スヴァエティチンは、網膜の電気生理学的特性に関する先駆的な研究を通して、色覚の理解に革命をもたらしました。彼の業績は、現代の視覚神経科学の基礎を築いただけでなく、国際的な科学交流の重要性も示しています。彼の名前は、色覚研究の歴史に永遠に刻まれています。

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