ケスケミトル

ケスケミトル：メキシコの伝統的な貫頭衣

ケスケミトル（quezquémitl）は、メキシコ先住民の女性が着用する伝統的な貫頭衣の一種です。ケシュケミトル（quexquémitl）やケチケミトル（quechquemitl）とも呼ばれます。先コロンブス期から存在し、ポンチョに似た形状をしていますが、丈が短く、肩から胸を覆うのが特徴です。

歴史と変遷

先コロンブス期には、ケスケミトルは女神や貴族の女性のみが着用を許された特別な衣装でした。しかし、スペインによる征服後、規制が緩和され、先住民の女性たちの間で広く着用されるようになりました。現在では、カミサ（ブラウス）やファルダ（スカート）の上に着るのが一般的です。かつては、上半身にケスケミトルだけを着用して外出することもあったようです。

構造

ケスケミトルは、多くの場合、長方形の布を2枚縫い合わせて作られます。ポンチョが体の前後に平行になるように着用するのに対し、ケスケミトルは体の前後に対角線がくるように着用するのが一般的です。

主な着用地域と部族

ケスケミトルは、主にメキシコ中央部の先住民の間で広く着用されています。具体的には、ナヤリット州、ハリスコ州、ケレタロ州、メキシコ州、イダルゴ州、プエブラ州、ベラクルス州などに住むワステカ族、ナワ族、テペワ族、オトミ族、マサワ族、パメ族、ウィチョール族の女性たちの衣装に見られます。また、ミチョアカン州ウルアパン付近やモレロス州、ゲレーロ州、オアハカ州の一部でも見られます。部族によってデザインが大きく異なるのも特徴です。

代表的なケスケミトル

ウィチョール族のケスケミトル

ウィチョール族は、メキシコ中部の山岳地帯に住む部族です。彼らの衣装は比較的簡素で、ケスケミトルも最も古い形式を忠実に継承していると考えられています。

特徴

縦67センチ、横134センチの未晒しの木綿（マンタ）の平織り一枚布を使用。
中心に36センチの切れ目を入れ、パイピングを施す。
長い辺を二つ折りにして、中心を36センチ残して縫い合わせる。
赤と黒を基調とした色鮮やかな柄をクロスステッチで装飾。

その他の衣装

カミサ（ブラウス）: 白地の薄手木綿で、襟あき18センチ程度の浅いラウンドネック。裾周り70センチ、肩までの高さ52センチとゆったりしたシルエット。後部に12センチのスリット。
袖: 長さ29センチほどの控えめなパフスリーブ。肩あきと袖口にギャザーを寄せ、6センチのカフス付き。
ファルダ（スカート）: カミサと同じ生地で、胴周り84センチ、裾周り230センチのシンプルなデザイン。裾に刺繍が施されている。
シンタ（帯）: 白の厚手木綿に毛糸刺繍を施した帯で、腰を固定する。

オトミ族のケスケミトル

オトミ族の衣装は地域によって大きく異なり、メキシコ州のオトミ族のケスケミトルは複雑な縫製で作られています。

特徴

縦7センチ、横センチの長方形でやや丸みを帯びた布を2枚縫い合わせる。
上部18センチは畝のある白い厚手の木綿で、毛糸でクロスステッチが施されている。
下部は紫紅色の毛織物で、肩に収まりやすいように肩先部分にカーブをつけて織られている。

その他の衣装

カミサ（ブラウス）: 薄手の白木綿で、襟あき17センチのやや深いスクエアネック。長さ19センチほどのフレンチスリーブ付き。
エンレド（巻きスカート）: 目が詰まった幅100cm、長さ340cmの白キャラコの一枚布を使用。胴回り15センチと裾回り19センチに紺地に青の格子柄の布が付けられている。後腰から右に巻き始め、前にプリーツをたたみ、毛織物の帯で固定。

まとめ

ケスケミトルは、メキシコの先住民文化を象徴する重要な衣装であり、そのデザインや素材には、各部族の歴史や文化が色濃く反映されています。それぞれの部族の伝統と技術が息づいているケスケミトルは、メキシコの民族衣装の中でも特に興味深い存在と言えるでしょう。

参考文献

田中薫、田中千代『カラーブックス世界のきもの』保育社
市田ひろみ『世界の衣装をたずねて』淡交社
田中千代『世界の民族衣装 装い方の知恵をさぐる』平凡社
Carlos Phillips Olmedo, et al. Self Portrait in a Velvet Dress: The Fashion of Frida Kahlo. Chronicle Books.

関連項目

ポンチョ

もう一度検索