ケプラー68

はくちょう座の方向、地球からおよそ472光年の距離に位置するケプラー68（Kepler-68）は、私たちの太陽とよく似た性質を持つG型主系列星です。この恒星は、その周囲に独自の惑星系を従えていることが明らかになっており、さらに恒星から比較的離れた位置に、重力的に結びついている可能性のある別の天体、すなわち伴星候補が存在することも示唆されています。ケプラー68系は、多様な天体を含む興味深い天体システムとして注目されています。

ケプラー68の惑星系の探索は、主に二つの異なる観測手法の組み合わせによって進められました。最初の発見は、NASAのケプラー宇宙望遠鏡によるトランジット法によってもたらされました。これは、惑星が恒星の手前を通過する際に発生するわずかな明るさの減光を捉える方法です。この手法により、ケプラー68bとケプラー68cという、恒星に近い軌道を持つ二つの惑星が確認されました。これらの惑星の存在が明らかになった後、地上からの追跡観測が行われました。特に、視線速度の精密な測定によって、恒星が惑星の重力によってわずかに揺れ動く様子が捉えられました。この視線速度観測は非常に重要で、これによりケプラー68bの正確な質量が決定されました。さらに、この観測データの中から、トランジット法では検出されなかった三つ目の惑星、ケプラー68dの存在を示す信号が発見されました。ケプラー68dは、他の二つよりも外側の軌道を公転しており、質量は木星に匹敵すると推定されています。特筆すべきはその軌道位置で、恒星のハビタブルゾーン、すなわち液体の水が表面に存在しうる温度帯の領域内を公転していると考えられています。ハビタブルゾーン内に大型惑星が存在することは、その惑星自体に生命が存在可能であるという直接的な証拠ではありませんが、もしその惑星が十分に大きな衛星を持っていれば、その衛星が生命を育む環境を持つ可能性も示唆されるため、科学的な興味を引く対象となります。さらに、近年では2023年に四つ目の惑星、ケプラー68eの発見も報告されており、この惑星系はさらに複雑であることが分かってきました。

また、視線速度のデータには、これらの確認された惑星以外にも、恒星に影響を与える別の天体の存在を示唆する、長期的な変動信号が含まれています。この信号は、10年以上の非常に長い周期を持つと推定されており、これがケプラー68系内のさらなる惑星なのか、あるいはケプラー68よりも小さな恒星、つまり恒星質量の伴星なのかは、現時点では特定されていません。この未確認天体の解明も、今後の観測によって進められる課題の一つです。

惑星系とは別に、ケプラー68からは比較的離れた位置に、別の天体が存在する可能性が指摘されています。スペインのカラル・アルト天文台にある2.2メートル望遠鏡に搭載された高解像度撮像装置「AstraLux」を用いた観測により、ケプラー68から天空上で約11秒角離れた位置に、伴星の候補となる微光天体が検出されました。この天体の観測データを、過去に実施された広域サーベイである2MASS（Two Micron All-Sky Survey）で得られたデータと比較・分析した結果、その天球上での位置のわずかな変化（固有運動）が、ケプラー68系に重力的に束縛されている天体の軌道運動と矛盾しないことが示唆されました。つまり、この天体は単なる背景の恒星ではなく、ケプラー68と物理的なペアをなしている連星系の一員である可能性が高いと考えられています。ケプラー68までの距離である約472光年において、11秒角という見かけの separation は、実際の空間における射影された距離に換算すると、およそ1600天文単位という非常に広大な間隔に相当します。これは太陽系で言えば、彗星の故郷とされるオールトの雲の内部、あるいはそれよりさらに外側にあたる領域です。仮にこの伴星候補天体が、ケプラー68の周囲を1600天文単位の距離でほぼ円形の軌道を描いて公転しているとすれば、その一回の公転にかかる時間は、計算上およそ5万年という途方もなく長い期間になると推定されます。しかし、この伴星候補が本当にケプラー68と重力的に結びついているのか、そしてその正確な軌道や性質を明らかにするためには、今後数年、あるいはそれ以上の期間にわたる精密な追跡観測が不可欠です。

ケプラー68系は、複数の惑星を持ち、さらに遠方に伴星候補が存在する複雑なシステムであり、太陽系外惑星系や連星系の多様性を理解する上で重要な研究対象となっています。今後の観測によって、この興味深いシステムの全貌がさらに明らかになることが期待されています。

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