ケプラー86

ケプラー86星系

主星 ケプラー86

地球から遠く離れた宇宙、はくちょう座の領域におよそ1206光年の彼方にある恒星が、ケプラー86です。この星は、私たち自身の太陽と多くの点で類似したG型主系列星に分類されます。その質量は太陽の約94%にあたり、大きさを示す半径も太陽とほぼ同等です。表面温度は5629ケルビン（K）と計測されており、これは太陽の5778Kと比べるとわずかに低い温度です。また、放つ光の強さである光度は太陽の約79%に留まっており、太陽よりやや控えめな明るさを持つ星と言えます。

このケプラー86の周囲では、2013年に一つの太陽系外惑星の存在が確認されました。

惑星 ケプラー86b（PH2b）

恒星ケプラー86の周囲を巡る惑星は、ケプラー86bと名付けられています。この惑星は、市民科学プロジェクト「プラネットハンターズ」の参加者たちが、NASAのケプラー宇宙望遠鏡が観測したデータを詳細に解析する過程で発見されました。そのため、この惑星はしばしばPH2bという通称でも知られています。場合によっては単にPH2と呼ばれることもありますが、これは通常、主星であるケプラー86とは区別して用いられます。

ケプラー86bは、その大きさから巨大ガス惑星であると考えられています。半径は木星の約90%と見積もられており、私たちの太陽系における木星や土星のようなガスを主成分とする巨大な世界です。

この惑星は、主星ケプラー86から0.828天文単位（AU）の距離を周回しています。天文単位とは、地球と太陽の平均距離を基準とした単位で、0.828AUという距離は、太陽系に当てはめると、金星の軌道（約0.72AU）と地球の軌道（約1.00AU）のほぼ中間に相当します。ケプラー86bはこの軌道を約282.5日かけて一周、つまり約282.5日の公転周期で主星を回っています。

特に注目すべき点として、ケプラー86bの軌道が主星ケプラー86のハビタブルゾーンの内側に位置していることが挙げられます。ハビタブルゾーンとは、恒星からの適切な距離のため、惑星の表面に液体の水が安定して存在できる可能性のある領域を指します。この軌道上の位置から算出されるケプラー86bの平衡温度は281K（摂氏約8度）と推定されており、これは生命が存在する上で比較的穏やかな、適温とされる環境に近い値です。

しかしながら、ケプラー86b自体は巨大ガス惑星であるため、岩石質の表面を持たず、地球のような生命が直接存在することは難しいと考えられています。ガス惑星の厚い大気や組成は、既知の生命体にとっては過酷な環境となる可能性が高いからです。それでも、もしこの巨大ガス惑星の周囲に十分な質量を持つ大きな衛星が存在するならば、その衛星の表面には液体の水や大気が存在しうる可能性があり、生命が育まれる環境となり得るという指摘もあります。現時点では、ケプラー86bにそのような衛星が存在するかどうかは確認されていません。

ケプラー86星系は、太陽に似た星のハビタブルゾーン内に巨大惑星が存在する興味深い事例として、太陽系外惑星の研究において重要な天体の一つです。

関連項目

太陽系外惑星
プラネットハンターズ
ケプラー64b
ケプラー90f

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