ケプラー90h

概要

ケプラー90hは、太陽から遠く離れた宇宙の深淵に位置する系外惑星です。地球からはるか約2500光年もの距離があり、りゅう座の方向にその姿を見つけられます。この惑星が公転しているのは、私たちの太陽よりわずかに大きく明るいG型主系列星、ケプラー90です。ケプラー90系は、合計8つの惑星が確認されており、太陽系と同じ数の惑星を持つ珍しい恒星系として知られています。ケプラー90hは、その中でも比較的外側を回る惑星の一つです。

この惑星の存在は、NASAのケプラー宇宙望遠鏡による観測データから明らかになりました。ケプラー宇宙望遠鏡は、惑星が恒星の手前を通過する際に発生するわずかな明るさの減少（トランジット）を捉える「トランジット法」という間接的な手法を用いて、多くの系外惑星を発見してきました。ケプラー90hも、この方法で恒星の光度変化からその存在が確認されたのです。

物理的特徴と軌道

ケプラー90hは、その物理的性質において、私たちの太陽系最大の惑星である木星と非常によく似ています。巨大なガス惑星であり、表面が岩石で構成されている可能性は低いと考えられています。質量は木星の約1.2倍、半径は約1.01倍と推定されており、木星よりわずかに大きい程度のサイズです。この数値は、ケプラー90hが木星に匹敵する巨大なガス状天体であることを示しています。

ケプラー90からの軌道は、約1.01天文単位（AU）の距離にあり、これは太陽と地球の平均距離にほぼ等しい値です。この距離を一周するのに要する時間、すなわち公転周期は約331.6日です。地球の公転周期（約365.25日）と比較的近い値であり、ケプラー90hは恒星からほど近い距離を公転していると言えます。

恒星ケプラー90について

ケプラー90hが公転する中心の恒星、ケプラー90は、G型主系列星に分類される恒星です。質量は太陽の約1.13倍、半径は約1.2倍と、太陽よりやや大きいことが分かっています。スペクトル分類はG6またはF6の可能性が推測されており、その表面温度は約6080ケルビン（K）と、太陽の約5778 Kよりも300 Kほど高温です。恒星の正確な年齢はまだ詳しく分かっていません。地球からの距離が約2500光年と非常に遠いため、その見かけの明るさを示す視等級は+14等級と極めて暗く、肉眼で観測することはできません。

居住性の可能性

ケプラー90hが興味深い点のひとつは、その軌道が恒星ケプラー90のハビタブルゾーン内に位置していることです。ハビタブルゾーンとは、液体の水が地表に存在しうる温度条件が満たされる恒星からの距離範囲を指します。しかし、ケプラー90h自体は巨大なガス惑星であるため、岩石質の地表を持たず、惑星そのものに生命が居住する可能性は低いと考えられています。

それでも、ケプラー90hのような巨大ガス惑星には、大きな衛星が存在する可能性が考えられます。もしこの惑星が適切な条件を備えた衛星を持っていた場合、その衛星の環境によっては液体の水が存在し、生命が進化する可能性も完全に否定はできません。ただし、巨大ガス惑星の周囲に形成される典型的な衛星（例えば木星のガリレオ衛星や土星のタイタンのような衛星）は、惑星の質量に対して比較的小さいものが多く、ハビタブルゾーン内の巨大ガス惑星に付随する居住可能なサイズの衛星は、遠方から捕獲されたものである可能性が指摘されています。木星のガリレオ衛星や土星のタイタンは、それぞれ自身の大気を保持する能力（タイタン）や磁場を持つ能力（ガニメデ）があると考えられており、十分な大きさがあれば居住性に関わる要素を持ち得ることが示唆されています。

衛星が惑星の周囲で安定した軌道を維持するためには、衛星の公転周期Psと惑星の恒星に対する公転周期Ppの間に、おおよそ Ps < (1/9) * Pp という関係が成り立つことが理論的に示されています。太陽に似た恒星から1 AU程度の距離にある巨大ガス惑星や褐色矮星の衛星の場合、安定した居住可能な環境を維持するためには、約45日から60日の公転周期が最適であるというシミュレーション結果があります。ケプラー90hの公転周期が約331.6日であることを考えると、この惑星の周囲に安定して存在しうる衛星の最適な公転周期も、これに近い範囲になると考えられます。

また、潮汐力は衛星の内部活動に重要な影響を与えます。惑星からの強い潮汐力は、衛星の内部でプレートテクトニクスを引き起こしたり、火山活動を活発にさせたりする要因となると考えられています。こうした活動は衛星の温度上昇や、ダイナモ効果による磁場の生成にも関与する可能性があります。

さらに、地球のような厚い大気を数十億年もの長期にわたって維持するためには、衛星が最低でも火星程度の密度を持ち、約0.07地球質量（M⊕）以上の質量を持つ必要があると推定されています。この大気を恒星風や放射線帯から保護するためには、衛星自身が強力な磁場を持っていることが望ましい条件となります。NASAの探査機ガリレオは、木星の衛星ガニメデが約0.025 M⊕の質量ながら磁気圏を持つことを発見しており、これはある程度の大きさを持つ衛星であれば磁場を持ちうることを示唆しています。

発見の経緯

ケプラー90hの発見は、ケプラー宇宙望遠鏡のミッションによって実現しました。2009年、ケプラーは恒星面のトランジットを検出するための光度計運用を開始し、その観測対象にはケプラーInput Catalog（KIC）に登録された約5万個もの恒星が含まれていました。ケプラー90もその観測対象の一つでした。系外惑星候補天体が存在する可能性のある恒星の集中的な観測は、2009年5月13日から2012年3月17日まで継続して行われました。

この期間中に取得されたケプラー90系の観測データを詳細に分析した結果、約331日ごとに発生する周期的な光度の減光が検出されました。この減光パターンが、ケプラー90の周囲を公転する惑星によるトランジットであると特定され、最終的にケプラー90hとして系外惑星であることが確認されたのです。

この発見に関する研究論文は、2013年10月22日に学術誌へ提出され、その後2014年7月2日にプレプリントサーバーarXivで公開されました。正式な論文としての公表は、2014年7月26日付のアストロノミカル・ジャーナル誌上で行われ、世界に向けてこの新たな系外惑星の存在が知らされることとなりました。

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