ケレティ・アーグネシュ

ケレティ・アーグネシュ：逆境を乗り越えた体操界のレジェンド

ケレティ・アーグネシュ（ハンガリー語: Keleti Ágnes, 1921年1月9日 - 2025年1月2日）は、ハンガリー出身の元女子体操競技選手です。彼女は、ユダヤ人であるがゆえにナチスによる迫害を受けましたが、ホロコーストを生き延び、30代で出場した2つのオリンピックで合計10個のメダルを獲得するという偉業を成し遂げました。

若き才能の開花と戦争の影

1921年、ブダペストで生まれたケレティは、幼少期に肺の不調を医師に指摘され、運動を勧められたことがきっかけで体操を始めました。8歳で学校一の体操選手となり、16歳でハンガリー国内選手権で初優勝。1938年にはハンガリー代表に選出され、1940年五輪での活躍が期待されました。しかし、第二次世界大戦の勃発により五輪は中止となり、彼女の所属していたクラブは1941年に非アーリア人を追放。ケレティ自身もその一人でした。

1944年、ナチス・ドイツによるハンガリー占領が始まり、ユダヤ人に対する迫害が激化しました。ケレティは、強制収容所送りを避けるため、体操選手のシャールカーニ・イシュトヴァーンと結婚し、キリスト教徒の少女の身分証明書を使い、メイドとして隠れて生活することでホロコーストを生き延びました。彼女の父や他の親戚はアウシュヴィッツで命を落としましたが、母と妹はスウェーデンの外交官ラウル・ワレンバーグによって救出されました。

オリンピックでの輝かしい活躍

戦後、ケレティは再び体操競技に打ち込み、1946年のハンガリー選手権で優勝。翌年には中欧選手権も制しました。1948年のロンドン五輪では、ハンガリー代表に選ばれましたが、試合直前に足首を負傷し、出場を断念。しかし、国際体操殿堂は、彼女を団体総合で銀メダルを獲得したハンガリーチームの一員として認定しています。

31歳で初出場した1952年のヘルシンキ五輪では、団体総合で銀メダル、手具体操団体で銅メダル、種目別ではゆかで金メダル、段違い平行棒で銅メダルを獲得。1954年の世界体操競技選手権では、段違い平行棒で金メダル、団体総合で銀メダル、平均台で銅メダルを獲得しました。

1956年のメルボルン五輪では、35歳という年齢で、個人総合で銀メダル、種目別では段違い平行棒、平均台、ゆかで金メダルを獲得。手具体操団体でも金メダルを獲得し、女子体操競技選手として史上最年長の金メダリストとなりました。彼女は、この大会で計6個のメダルを獲得し、合計10個のメダルを保持するという偉業を達成しました。

ハンガリー動乱と亡命、そして新たな人生

メルボルン五輪開催中にハンガリー動乱が発生。ケレティを含むハンガリー代表選手たちは祖国への帰国を断念し、オーストラリアへ亡命しました。その後、彼女はイスラエルに移住し、体育教師のビロ・ロベルトと再婚。テルアビブ大学やウィンゲート体育研究院でインストラクターを務めながら、体操競技のイスラエル代表チームのコーチとしても活躍しました。

ケレティは、2016年にハンガリー最高齢の五輪金メダリストとなり、2017年にはイスラエル最高の栄誉であるイスラエル賞を受賞しました。2025年1月2日に103歳で亡くなるまで、体操への情熱を持ち続けました。彼女の著書『Egy olimpiai bajnok három élete（あるオリンピックチャンピオンの三つの人生）』は、彼女の波乱万丈な人生と体操への愛情を物語っています。

ケレティ・アーグネシュは、その輝かしい競技成績だけでなく、逆境に立ち向かう不屈の精神と、人道的な行動によって、世界中の人々に感動を与え続けています。彼女の生き方は、私たちに勇気と希望を与えてくれるでしょう。

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