ケン・バーンズ・ジャズ

ケン・バーンズ監督『ジャズ』：アメリカ音楽史を彩る巨匠たちの足跡

2001年にPBSで放送され、エミー賞にもノミネートされたケン・バーンズ監督のドキュメンタリー・ミニシリーズ『ジャズ』は、20世紀初頭から現代に至るまでのアメリカにおけるジャズ音楽の歴史を年代順に描いた壮大な作品です。各エピソードは、ジャズの革新的な作曲家やミュージシャンに焦点を当て、彼らの音楽がアメリカの歴史と深く結びついていることを示唆しています。

ジャズの巨人たち

このドキュメンタリーの中心人物は、スウィング時代の象徴であるルイ・アームストロングとデューク・エリントンです。彼らの音楽は、ジャズの発展において重要な役割を果たしました。また、チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーによるビバップの革新、マイルス・デイヴィス、オーネット・コールマン、ジョン・コルトレーンによるフリー・ジャズやクール・ジャズへの挑戦も詳しく解説されています。1917年から2001年までをカバーする全10話のうち、最終話を除くすべてが1961年以前の音楽に費やされており、初期ジャズへの深い敬意が感じられます。

ドキュメンタリーの特徴

キース・デイヴィッドによるナレーション、ウィントン・マルサリス（ジャズの芸術監督兼共同プロデューサー）、ゲイリー・ギディンス、スタンリー・クラウチといった評論家やミュージシャンへのインタビューを通じて、ジャズの魅力を多角的に伝えています。音楽評論家でアフリカ系アメリカ人の歴史家であるジェラルド・アーリーがコンサルタントを務め、歴史的視点の正確性を担保しています。

視覚的には、ケン・バーンズ監督独特のスタイルが用いられています。写真のゆっくりとしたパンとズーム、当時の貴重な映像、そして現代のジャズ関係者による証言が組み合わされ、視聴者はジャズの歴史を追体験できます。デューク・エリントンの「I Let a Song Go Out of My Heart」（1938年）が、各エピソードのオープニングとクロージングで繰り返され、作品全体を象徴するモチーフとなっています。

多様な評価

『ケン・バーンズ・ジャズ』は、多くの批評家から肯定的な評価を受けました。『リーズン』誌は、この作品を「才能ある伝記作家による、登場人物たちの伝記を詳細かつ包括的な物語として提示するのに最も効果的な映画」と評しています。ジェイソン・ヴァン・ベルゲンは、シリーズの細部へのこだわりを称賛し、「ジャズの成長に関する百科事典的な表現」であると述べました。

一方で、否定的な意見も存在します。『The Nation』誌のジーン・サントロは、最終エピソードを批判し、「ジャズ：最初の50年間」として販売すべきだったと主張しました。『The Observer』誌のウィリアム・ベルリンドは、ウィントン・マルサリスの関与が「活気に満ち、進化していく音楽を、死んで静止しているように見せた」と指摘しています。

コンピレーション・アルバム

ドキュメンタリーと並行して、多数のコンピレーション・アルバムがリリースされました。『ケン・バーンズ・ジャズ〜20世紀のジャズの宝物』と題されたアルバムは、ヴァーヴおよびコロムビア/レガシー・レーベルから、ルイ・アームストロング、デューク・エリントン、チャーリー・パーカーなど、ジャズ界の巨匠たちの名演を集めた貴重なコレクションとなっています。

まとめ

『ケン・バーンズ・ジャズ』は、ジャズ音楽の歴史と魅力を深く掘り下げた、見応えのあるドキュメンタリーです。肯定的な評価と否定的な評価の両方がありますが、ジャズファンはもちろん、アメリカ史に関心のある人々にとっても必見の作品と言えるでしょう。

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