ケークウォーク

ケークウォーク（Cakewalk）は、19世紀末にアメリカ合衆国南部でアフリカ系アメリカ人の間から生まれたダンスの一種です。軽快な2拍子のリズムが特徴で、そのステップには、かつて奴隷たちがプランテーション所有者の歩き方を誇張して真似たことに端を発するという説もあります。後に洗練され、ミンストレル・ショーで人気を博しました。一説には、ダンスの腕前を競い、勝者にケーキが与えられたコンテストに由来するとも言われています。この「ケーキをもらう」という行為から転じて、ケークウォークは「非常に簡単なこと」「楽勝」という意味の慣用句としても使われるようになりました。

歴史と文化への波及

アメリカ南部で確立されたケークウォークは、20世紀初頭にはヨーロッパ、特にフランスのパリへと伝わり、異国情緒あふれる新しいダンスとして大きな流行を生みました。また、アメリカ南部においては、その独特のリズムや構成が、後のジャズ音楽の形成にも影響を与え、ジャズのルーツの一つとも位置づけられています。

ケークウォークは、当時の芸術家たちにもインスピレーションを与えました。フランスの作曲家クロード・ドビュッシーは、このダンスから着想を得て複数のピアノ曲を作曲。子供向け組曲『子供の領分』の「ゴリウォーグのケークウォーク」は特に有名です。他にもドビュッシーは、「小さな黒人」や、前奏曲集中の「ミンストレルズ」などで、ケークウォークのリズムを取り入れています。

20世紀初頭パリでの熱狂と芸術への影響

20世紀初頭のパリ、モンパルナス地区には黒人経営のダンスホールが出現し、ケークウォークのようなダンスが楽しまれていました。当初はパリに住む黒人たちの集いの場でしたが、その活気や魅力が評判となり、やがて多くの白人客、特に女性たちが黒人たちと一緒に踊るために通うようになりました。

モンパルナス界隈に集まっていた芸術家たち、例えば詩人ギヨーム・アポリネールや画家藤田嗣治などもこのダンスホールを訪れ、強い関心を示しました。当時の雰囲気を示す資料は、現在もモンパルナス博物館に展示されています。

このダンスホールは住民の苦情などにより閉鎖されましたが、当時のパリ社会、特に芸術家たちに与えた影響は大きかったと言えます。後期印象派以降の画家たち（ピカソ、藤田嗣治など）や作曲家（ドビュッシー、プーランクなど）が、ケークウォークを含む黒人文化から刺激を受け、これがダダイスムのような前衛芸術運動へも繋がっていったと考えられています。これは、20世紀初頭のパリにおける黒人文化への関心を高める重要なきっかけの一つとなりました。

慣用句「take the cake」

ケークウォークのコンテストで勝者にケーキが与えられたという説から、英語の慣用句「take the cake」が生まれたと言われています。このフレーズは元々「最も優れている」という意味で使われましたが、皮肉を込めて「最もひどい」といった否定的な意味合いでも用いられるようになりました。一つのダンスが、言葉の歴史にまでその名を残しているのは興味深い事実です。

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