子供の領分

クロード・ドビュッシーのピアノ組曲『子供の領分』

『子供の領分』（原題：Children's Corner）は、フランスの作曲家クロード・ドビュッシーが1908年に完成させたピアノのための組曲です。この作品は、当時3歳だったドビュッシーの愛娘クロード・エンマ（愛称“シュシュ”）のために作曲されました。しかし、子供に演奏させることを意図したものではなく、大人が子供のような純粋な心を取り戻し、楽しむことを目的としています。この点において、シューマンの『子供の情景』と共通する精神性を持っています。

作品の背景

ドビュッシーは1905年に前妻と離婚し、銀行家の妻であったエンマ・バルダックと再婚しました。その年に誕生した一人娘のクロード・エンマを溺愛し、この作品を彼女に捧げました。曲のタイトルが英語で表記されているのは、エンマ夫人のイギリス趣味の影響だと考えられています。

1908年にデュラン社から出版され、同年12月18日にパリでハロルド・バウアーによって初演されました。その後、1911年にはアンドレ・カプレによってオーケストレーションが施され、同年3月25日に初演されています。

曲の構成

『子供の領分』は、以下の6つの小品から構成されています。

1. 第1曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」(Doctor Gradus ad Parnassum)
クレメンティの練習曲集『グラドゥス・アド・パルナッスム』（パルナッスム山への階梯）のパロディで、練習に励む子供の姿を描いています。退屈な練習にうんざりする子供の心理をユーモラスに表現した作品で、ドビュッシーは「毎朝、朝食前に弾くべき曲」と述べています。

2. 第2曲「象の子守歌」(Jumbo's Lullaby)
五音音階による旋律と2度の和音が、異国情緒を醸し出しています。本来のタイトルは「Jumbo's Lullaby」ですが、フランス語でJumboとJimboの発音が同じになるため、出版社のミススペル「Jimbo's Lullaby」が広まっていました。近年、新校訂版で元の綴りに戻されています。

3. 第3曲「人形へのセレナード」(Serenade of the Doll)
「人形のセレナード」とも呼ばれます。この曲集の中で最も早く作曲され、1906年には単独で楽譜が出版されています。「象の子守歌」と同様、五音音階に基づいた主題が用いられています。アルフレッド・コルトーは、ドビュッシーがタイトルを「Serenade for the Doll」とすべきところを「of」と誤ったのではないかと指摘しています。

4. 第4曲「雪は踊っている」(The Snow is Dancing)
静かに降る雪を、窓辺からじっと見つめる子供たちの姿が目に浮かぶような作品です。雪の妖精が白いビロードで地表を覆う様子を、トッカータ風のリズムで表現しています。ドビュッシーは、イギリスの妖精を題材としたアーサー・ラッカムのイラストレーションから着想を得たとされています。

5. 第5曲「小さな羊飼い」(The Little Shepherd)
三部形式で構成され、付点リズムの旋律が静かに歌われる、牧歌的な雰囲気を持つ曲です。

6. 第6曲「ゴリウォーグのケークウォーク」(Golliwogg's Cakewalk)
この組曲の中で最も有名な曲です。ゴリウォーグとは、フローレンス・アップトンの絵本に登場する黒人の男の子人形のキャラクターの名前で、ケークウォークは黒人のダンスの一種です。この曲は、西洋音楽とアフリカの黒人音楽の接触の初期の例として挙げられることがあります。中間部では、ワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』の冒頭部分が引用されています。

関連する楽曲

ガブリエル・フォーレ：組曲『ドリー』（エンマの連れ子である娘の誕生日を祝うために書かれた曲を中心に構成されています。）
ウジェーヌ・ボザ：『夏山の一日』（第2楽章「急流のほとりで」に「雪は踊っている」の中間部のメロディが引用されています。）

「子供の領分」が使用された作品

楽曲
冨田勲のアルバム『月の光』には、シンセサイザーによる第4曲『雪は踊っている』と第6曲『ゴリウォーグのケークウォーク』が収録されています。

テレビ
ルパン三世 (TV第2シリーズ) - 第130話「ルパン対奇人二面相」にて、『ゴリウォーグのケークウォーク』のオーケストラ編曲版が、悪役のテーマ曲として使用されています。
ウルトラQ dark fantasy - 第24話「ヒトガタ」では、第2曲から第5曲までがBGMとして使用されています。ただし、エンディングでは『子供の情景』と誤って表記されています。第25話「闇」でも、第2曲と第5曲が使用されています。
YKK AP - 2005年に放送されたテレビCMにて、第1曲『グラドゥス・アド・パルナッスム博士』が使用されていました。
日本和装 - テレビCMにて、第6曲『ゴリウォーグのケークウォーク』が使用されていました。

ゲーム
悪魔城すぺしゃる ぼくドラキュラくん - ゲームボーイ版のステージ2BGMで、第6曲『ゴリウォーグのケークウォーク』が使用されています。
ときめきメモリアル2 - 幼年期の昼間のシーンで、第6曲『ゴリウォーグのケークウォーク』が使用されています。
麻雀覇王伝 カイザーズクエスト - ノーマルモードの対局時BGMに、第6曲『ゴリウォーグのケークウォーク』が使用されています。

参考文献

Cortot, Alfred (1922). The piano music of Claude Debussy. Kessinger Pub Co.
Hinson, Maurice (2007). Children's corner: for the piano. Alfred Pub Co.
松橋麻利『作曲家◎人と作品－ドビュッシー』音楽之友社、2007年5月10日。ISBN 978-4-276-22189-5。

外部リンク

子供の領分の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
* ゴリウォーグについてのサイト（英文）

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