ケートゥ

インド神話およびインドの伝統的な天文学において、九つの天体「ナヴァ・グラハ」（サンスクリット語: नवग्रह）の一つとして数えられるケートゥ（サンスクリット語: केतु Ketu）。その存在は古くから認識されており、中国など東アジアにも伝播し、漢訳では計都（けいと）または計都星（けいとせい）と呼ばれてきました。単なる天体の概念を超え、神話上の存在、そして人々の運命に影響を与える力として、インド占星術やヒンドゥー信仰において重要な位置を占めています。

天文学的な側面

ケートゥが天文学的に何を指すかについては、複数の見解があります。最も広く受け入れられているのは、月軌道が地球の公転面（黄道）と交わる二つの点のうち、南から北へ向かう「昇交点」の対極にある「降交点」であるという説です。これは西洋占星術における「ドラゴンテール」に相当します。ケートゥ自体は物理的な実体を持たない計算上の点ですが、太陽や月がこの点、あるいは昇交点であるラーフを通過する際に、日食や月食といった「食」現象を引き起こす原因となると考えられてきました。ラーフとケートゥは対となり、食が発生しうる天球上の二つのノード（交点）を示すのです。

一部には、ケートゥを昇交点とし、ラーフを降交点とする逆の説や、彗星や流星といった突発的な天体現象と結びつける説もあります。また、まれに月の公転軌道上で地球から最も遠くなる「月の遠地点」と同一視されることもあり、これは西洋占星術のリリスに関する説の一つとも共通する点です。これらの多様な解釈は、古代の人々が天の運行や異変を、特定の象徴や存在と結びつけて理解しようとした試みを反映しています。

神話上の起源

ケートゥの誕生については、インド神話における有名な物語「乳海攪拌（にゅうかいかくはん）」の中で語られます。神々とアスラが協力して不老不死のアムリタを創り出すこの過程で、アスラの一人であるラーフが神々に化けてアムリタを盗み飲みしようとしました。

ラーフの企みは、太陽神スーリヤと月神チャンドラによって見破られ、彼らの告げ口を受けた最高神ヴィシュヌによって、その首を断ち落とされてしまいます。しかし、アムリタが既に喉を通った後であったため、ラーフの首は不死となり、天空に昇ってラーフという名の遊星となりました。そして、切り離された胴体もまた不死となり、ケートゥという別の遊星になったと伝えられています。この神話は、なぜラーフとケートゥが日食・月食を引き起こすのかという現象に神話的な説明を与えるもので、アムリタを飲み損ねた恨みから、時折、太陽や月を飲み込もうとすると考えられています。

図像と性質、そして信仰

ケートゥは、図像において様々な形で表現されますが、特徴的なものとして、鳥に乗る姿や、下半身が蛇の形になっている姿が挙げられます。これは、天空を移動する存在であることや、神話における胴体の起源を示唆するものと考えられます。

インド占星術において、ケートゥはラーフやシャニ（土星）と並んで、一般的には「凶星」の一つと見なされがちです。急な変化、予期せぬ出来事、分離、損失といった象面を司るとされますが、同時に、物質的な執着からの解放、精神性の深化、霊的な探求、隠された知識や直感といった、より内面的で精神的な側面も象徴すると解釈されることがあります。特定のホロスコープの配置においては、世俗的な成功ではなく、内面的な成長や解脱（モークシャ）への道を示す存在ともなり得ます。

ケートゥは、ラーフと同様に、インド各地、特に南インドの寺院で重要な神格として祀られています。人々の運命に影響を与える力を持つと考えられているため、その影響を和らげ、あるいは有益な方向に導くための特別な祈りや儀式が頻繁に行われています。

まとめ

ケートゥは、単にインド天文学における月の軌道上の計算点であるだけでなく、壮大な神話の登場人物であり、人々の運命に深く関わる占星術上の象徴でもあります。目に見えない存在でありながら、日食や月食といった天文現象と結びつき、また個人の内面的な変化や精神的な成長にも関わる、多角的で複雑な意味合いを持つ星として、現代においてもインド文化の中で生き続けています。

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