ゲオルク・ティントナー

ゲオルク・ティントナー（Georg Tintner, 1917年 5月22日 - 1999年 10月2日）は、オーストリア・ウィーン生まれの指揮者です。特に晩年にナクソス・レーベルで録音したブルックナーの交響曲全集は、彼の名を世界に知らしめました。

生涯

幼少期と音楽との出会い

6歳からピアノを始めたティントナーは、10歳でウィーン少年合唱団に入団。そこで、ブルックナーの弟子として知られる名指揮者フランツ・シャルクの指導を受けました。この経験は、彼の音楽的ルーツを形成する上で重要な役割を果たしました。

亡命と放浪の時代

1938年、ナチス・ドイツによるオーストリア併合によって、ユダヤ人であったティントナーは職を失い、国外への脱出を余儀なくされます。その後、彼は世界各地を転々としながら職を求め、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、イギリスなど、様々な場所で指揮者としてのキャリアを積み重ねていきます。

結婚と再婚、そしてカナダへ

ニュージーランドでの最初の結婚は離婚に終わり、その後、南アフリカやオーストラリアで2度の結婚と離婚を経験します。1978年にターニャ夫人と結婚し、彼女は生涯の伴侶となりました。1986年には、長年の教育活動が縁となり、カナダのノバスコシア交響楽団の要請を受け、カナダへ移住しました。彼は長年、苦難の時代を過ごしましたが、5つの大陸でブルックナーの音楽を演奏し続けました。

ナクソスとの出会いとブルックナー交響曲全集

1994年、ティントナーはナクソス・レーベルの社長クラウス・ハイマンと出会い、ブルックナーの交響曲全集録音プロジェクトが始動します。この時、彼はすでに悪性黒色腫に侵されていましたが、その音楽への情熱は衰えることなく、全集の録音を完成させました。彼の解釈と演奏は世界中で絶賛され、多くのファンを獲得しました。

ブルックナー交響曲全集の特徴

ティントナーのブルックナー交響曲全集の特徴は、以下の通りです。

古典的配置: 第1・第2ヴァイオリンを左右両翼に配置する古典的配置を採用。
自筆解説: CDの楽曲解説書を全て自身で執筆。
版へのこだわり: 各交響曲の初稿や異稿を積極的に採用。

特に版へのこだわりは特筆すべき点であり、第2番では1872年稿、第8番では1887年版第1稿を採用するなど、彼の音楽的な探求心とこだわりが伺えます。

晩年と悲劇的な最期

70歳代後半に指揮者として成功を収めたティントナーでしたが、病状は悪化の一途を辿ります。1999年 10月2日、彼は病苦に耐えかねて、自宅マンションから飛び降り自殺を遂げました。82歳でした。彼の死によって、ブルックナーの交響曲全稿録音、合唱曲の全曲録音、そして日本でのコンサートという夢は叶わぬものとなりました。

死後の評価と遺産

ナクソス・レーベルは、ティントナーの功績を称え、生前のコンサート音源やスタジオ録音をまとめた「ティントナー・メモリアル・エディション」を発売。彼のブルックナー以外のレパートリーも聴くことができるようになりました。

作曲家としての側面

ティントナーは、ウィーン国立音楽アカデミーで作曲も学んでいました。指揮者としての活動が中心だったため、作曲家としての作品は長らく知られていませんでしたが、2007年にナクソス・レーベルから『室内楽曲集』がリリースされ、その才能が再評価されるようになりました。収録された作品は以下の7曲です。

ヴァイオリン・ソナタ
ショパンの主題による変奏曲
前奏曲『あこがれ』
友の死に寄せて
ピアノ・ソナタヘ短調
2つのフーガ
葬送曲

まとめ

ゲオルク・ティントナーは、苦難の人生を歩みながらも音楽への情熱を失わず、独自の解釈と版へのこだわりでブルックナーの音楽を追求し続けた指揮者でした。彼の生涯と音楽は、多くの人々に感動を与え、今もなお、その影響力は色褪せることはありません。

参考文献
* 『クラシック・プレス』2000年冬号（第5号）特集「ティントナー物語」（音楽出版社刊）　ターニャ夫人の回想記。

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