ゲオルク・ニコラウス・ニッセン

ゲオルク・ニコラウス・フォン・ニッセン（1762-1826）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて活躍したデンマークの外交官であり、後に伝記作家として重要な足跡を残しました。

彼の最も重要な功績は、作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの生涯を記録した、最初期の伝記を編纂したことです。この伝記は、発表から2世紀以上を経た現在でも、多くの音楽史研究者にとって重要な文献として利用されています。

ニッセンは1762年1月22日、ハデスレウ市に生まれました。デンマークの官僚としてキャリアを積み、1792年からは外交官としてデンマーク国外で勤務しました。1793年には臨時代理大使としてオーストリアの首都ウィーンに派遣されました。

ウィーン駐在中の1797年、ニッセンはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの未亡人コンスタンツェと出会います。モーツァルトはニッセンとの出会いの6年前に亡くなっており、コンスタンツェは二人の息子と多額の借金を抱え、困難な状況にありました。ニッセンとコンスタンツェは次第に親交を深め、翌1798年9月にはウィーンで同居を開始しました。

この頃、コンスタンツェは夫が遺した楽譜の版権を活用し、収入を得ることで経済的な自立を目指していました。ニッセンはコンスタンツェの活動を支援し、特に楽譜の出版に関する交渉などで貢献しました。コンスタンツェは借金を完済し、財産を築くことに成功しました。二人は1809年に結婚しましたが、ニッセンとコンスタンツェの間に子供はなく、家族はコンスタンツェとモーツァルトの息子二人だけでした。モーツァルト研究者のルース・ハリウェルは、ニッセンが連れ子に対して示した配慮を、「思いやりのある父の役割」と評しています。

1812年、ニッセンはデンマークへ帰国し、コペンハーゲンで郵政監察官を務めました。1820年に退官すると、彼はモーツァルト伝記の執筆に専念するため、ザルツブルクへ移住しました。伝記の執筆作業は1823年に本格的に始まりました。この頃、ニッセンはモーツァルトの実姉マリア・アンナから、ヴォルフガングが書いた約400通の手紙の提供を受けました。これらの書簡は、伝記の信頼性を高める貴重な一次資料となりました。

伝記完成を待たずに、ニッセンは1826年3月24日にザルツブルクで64歳で死去しました。伝記は未完に終わりましたが、ニッセンが遺した詳細なメモと資料に基づき、モーツァルトの愛好家であったドイツ人医師ヨハン・ハインリヒ・フォイアーシュタインが補完作業を行いました。そして、ニッセンの死から3年後の1829年、伝記は完成し発表されました。

ニッセンのモーツァルト伝記は、関係者からの証言や大量の一次資料（書簡）に基づいていることから、初期のモーツァルト研究における重要な文献とされています。現代でも多くの音楽史家によって参照され続けています。ニッセンはザルツブルク市内の墓地に埋葬されており、その墓碑には「モーツァルトの未亡人の夫」と記されています。この墓地は現在も公開されており、訪れることができます。

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