ゲオルク・レーバー

ゲオルク・レーバー：西ドイツの政治を彩った「兵士の父」

ゲオルク・レーバー（Georg Leber, 通称ショルシュ・レーバー, 1920年10月7日 - 2012年8月21日）は、ドイツ社会民主党（SPD）に所属した政治家です。1960年代から1970年代にかけて、西ドイツの交通相、郵政相、国防相などの要職を歴任し、その手腕と人柄から多くの国民に愛されました。特に、国防相時代には「兵士の父」と呼ばれ、軍人たちから深く尊敬されました。

労働組合出身の政治家

ヘッセン州オーバーティーフェンバッハ（現在のベーゼリヒ）でカトリック教徒の家庭に生まれたレーバーは、国民学校卒業後、商人修業を経て石工の徒弟となりました。第二次世界大戦中はドイツ空軍の兵士として従軍し、戦後は建設業に従事しました。1947年には建設業の産業別労働組合（IG Bau-Steine-Erden）に加入し、労働運動の世界へ足を踏み入れます。1949年には同組合の専従書記となり、その後、労働組合紙「礎石」の編集員も務めました。1951年にSPDに入党し、政治家としてのキャリアをスタートさせます。1955年には建設業労働組合の副委員長、1957年から1966年までは委員長として労働者の権利擁護に尽力しました。また、労働者向けの貯蓄積立銀行の設立にも関わっています。

1957年にはドイツ連邦議会議員に初当選し、1958年から1年間は欧州議会議員も兼任しました。党内では右派に属し、1961年にはSPD議員団代表委員会入りを果たします。

交通相、郵政相としての活躍

1966年、クルト・ゲオルク・キージンガー政権下で交通相として初入閣し、アウトバーン整備計画「レーバー計画」を立案しました。この計画は、全ての西ドイツ国民をアウトバーンから20km以上離れた場所に住ませないという壮大なものでしたが、実際に1970年代に実行されたアウトバーン整備事業は、彼の計画から一部変更されています。1969年にヴィリー・ブラント政権が成立した後も、彼は交通相として留任し、さらに郵政通信相も兼任しました。

「兵士の父」として

1972年7月、レーバーはヘルムート・シュミットの後任として国防相に就任しました。国防相となった彼は、軍人や国防省職員から「兵士の父」として敬愛されるようになります。その背景には、彼が軍人一人ひとりに寄り添い、彼らの意見を真摯に受け止める姿勢がありました。また、就任直後には、正体不明の航空機が西ドイツ領空に侵入するという緊急事態に直面しましたが、冷静な判断で事態を収拾し、その危機管理能力を発揮しました。

さらに、彼は連邦軍の近代化にも尽力しました。1973年には、ミュンヘンとハンブルクに連邦軍大学を設置し、軍事研究を可能にしました。また、同年には陸軍の三個旅団増設を提案し、1975年には医療分野に限って女性の士官任用を認めました。これらの改革は、ドイツ連邦軍の強化に大きく貢献しました。

スキャンダルと辞任

しかし、レーバーの政治家人生は順風満帆とはいきませんでした。1976年には、ナチス・ドイツ空軍の英雄であるハンス・ウルリッヒ・ルーデルを空軍の会合に招いた将軍二人を退役させたものの、この人事に対して保守系野党から激しい批判を浴びました。さらに1978年には、連邦軍の防諜課が彼の女性秘書を東ドイツ国家保安省の協力者と疑い、自宅を盗聴していたことが発覚し、大きなスキャンダルに発展しました。レーバー自身は関与していませんでしたが、責任を取って国防相を辞任しました。その後、秘書の無実が証明されたものの、彼の政治家としてのキャリアには大きな傷跡が残りました。

引退後の活動

1979年には連邦議会副議長に選出され、1983年に政界を引退しました。その後は労働組合の活動に戻り、労働時間の短縮などを実現しました。また、青少年・社会政策・教育政策に関わる団体の代表を務め、敬虔なカトリック教徒としてドイツ・カトリック中央委員会にも属していました。1984年に妻を亡くした後、再婚し、バイエルン州の保養地で余生を過ごしました。2012年、91歳で長い闘病生活の末に死去しました。

ゲオルク・レーバーの遺産

ゲオルク・レーバーは、その波乱万丈な政治家人生を通して、ドイツの戦後政治に大きな足跡を残しました。労働運動出身の政治家として、労働者の権利擁護に尽力し、また国防相としては、軍の近代化を推進しました。その一方で、スキャンダルによって辞任を余儀なくされるなど、複雑な一面も持ち合わせていました。しかし、その人柄と実績から、今もなお多くの人々から尊敬を集めています。

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