ゲッティンゲン七教授事件

ゲッティンゲン七教授事件：自由と学問の尊厳をかけた闘い

1837年、ドイツのゲッティンゲン大学で、7人の教授が国王の専制政治に抗議し、大学を追われるという歴史的な事件が発生しました。この事件は「ゲッティンゲン七教授事件（Göttinger Sieben）」として知られ、ドイツにおけるリベラリズムの象徴的な出来事として現在も語り継がれています。

事件の背景：揺れるハノーファー王国

1830年代のヨーロッパは、革命と保守主義の激突が続く時代でした。ハノーファー王国も例外ではなく、イギリスとの同君連合を背景とした自由主義的な動きと、国王による絶対主義的な統治の狭間で揺れていました。1833年に制定された新憲法は、ある程度の民主主義的な政治を可能にしましたが、1837年、イギリスのヴィクトリア女王がハノーファー王位を継承できず、叔父のエルンスト・アウグストが国王になると、状況は一変します。

エルンスト・アウグストは即位と同時に新憲法を破棄し、専制的な統治を開始しました。この専制的な政策に真っ向から反対したのが、ゲッティンゲン大学の7人の教授でした。

抗議と弾圧：7人の教授の決意

ゲッティンゲン大学の7人の教授は、国王の専制政治を批判する共同声明を発表しました。この中には、歴史学者のフリードリヒ・クリストフ・ダールマン、ドイツ語学者のヤーコプ・グリム、文学史家のゲオルク・ゴットフリート・ゲルヴィーヌスといった著名な学者も含まれていました。彼らは、学問の自由と国民の権利を守るため、権力に毅然と立ち向かいました。

しかし、彼らの抗議は国王によって容赦なく弾圧されました。ダールマン、ヤーコプ・グリム、ゲルヴィーヌスら3名は国外追放を命じられ、残りの4名も解雇されました。この決定に、学生たちは抗議デモを行い、事件はドイツ全土、そして海外にも波及していきました。

亡命と再起：その後の人生

追放、解雇された7人の教授は、それぞれが新たな道を歩むことになりました。ヤーコプ・グリムは亡命先のカッセルで自身の弁明書を発表し、グリム兄弟は失職後もドイツ語辞典の編纂を続けました。他の教授たちも、さまざまな大学で教鞭をとり続けました。

その後、1840年にはハノーファー王国に新しい憲法が制定され、国王も国民との妥協を余儀なくされました。これは、ゲッティンゲン七教授事件が、ドイツの政治に影響を与えたことを示しています。また、1848年の三月革命では、7人の教授のうち4人がドイツ国民議会議員として活動し、ドイツ統一に向けた議論に参加しました。

ゲッティンゲン七教授事件の遺産

ゲッティンゲン七教授事件は、ドイツの歴史において重要な意味を持ちます。彼らの行動は、学問の自由、国民の権利、そして民主主義の重要性を改めて示すものとなりました。この事件は、「Göttinger Sieben」という呼び名で知られ、大学人が権力に抵抗する際の象徴的な出来事として、現在もドイツ社会に深く刻み込まれています。

その後も、この事件に倣う形で、ゲッティンゲン大学の教授たちが政府の政策に反対する声明を出すなど、その影響は現代まで続いています。日本の学術会議問題なども、この事件と比較検討されるなど、自由と民主主義を護るための闘争の象徴として、世界中で想起され続けています。

もう一度検索