ゲティ研究所
ゲティ学術研究所（Getty Research Institute, GRI）は、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスのゲティ・センターに位置する、視覚美術に関する知識向上を目的とした私設の研究機関です。ゲティ財団の資金援助を受け、研究図書館の維持、展覧会等のイベント開催、研究者の招聘制度や助成金の提供、出版活動、そして電子データベースの構築など、多岐にわたる活動を行っています。
GRIは、1983年に「ゲティ・センター人文科学・美術史部門」としてカリフォルニア州サンタモニカで創設されました。初代所長にはカート・W・フォルスターが就任し、設立当初3万冊だった蔵書は、1986年には45万冊にまで拡張されました。フォルスター所長は1992年の退任時に、GRIが「小さな博物館図書館から、美術と文化における卓越した研究拠点の一つになった」と述べています。1994年には、イタリアの古典美術と考古学の教授であるサルバトーレ・セッティスが所長に就任。1996年に「ゲティ人文科学美術史研究所」と改称され、1999年以降は「ゲティ研究所」という通称で知られています。
1995年から1999年にかけて、特別展「題材としてのロサンゼルス—ロサンゼルス・コミュニティーの変革文化」が開催されました。この展覧会は、新設されるロサンゼルス研究助成金の支援と、地元文化の保存・展示を促進することを目的としていました。1999年には地元団体と共同で、『文化遺産・ロサンゼルスーロサンゼルスにおける地名度の低いアーカイブとコレクションの情報源目録』が公開されました。2000年、ロサンゼルス・プロジェクトは南カリフォルニア大学に移管され、オンライン版情報源目録の更新と展開が継続されています。また、1999年にはゲティ情報研究所が解散したことで、その機能の多くをGRIが引き継ぎました。
2000年には、セッティス前所長の推薦により、トーマス・E・クロウがGRI所長に就任。その後、クロウがニューヨーク大学へ留学したことを受け、2007年11月からは、ドイツ出身の美術史家であり、「ゲティ・センター人文科学・美術史部門」時代（1985-1988年）に客員研究員であったトーマス・E・ガイゲンズが所長を務めています。
GRIの図書館は、100万冊を超える書籍、定期刊行物、オークション図録に加え、美術および建築関連の写真200万点以上を所蔵しています。また、アメリカの彫刻家マルヴィーナ・ホフマンの全作品アーカイブ、美術史家ハラルド・シーズマンの書簡や研究ファイル、書籍、写真などの膨大なアーカイブ、さらにグーピル商会、ブソー・ヴァラドン画廊、クネーデル画廊、デューフェン兄弟などの美術商の記録も所蔵しています。GRI図書館の蔵書は館外への貸し出しは行っていませんが、入館資格に制限はありません。
GRIには2つの展示施設があり、年2回、研究図書館の特別収蔵品や招聘美術家の作品に焦点を当てた展覧会を開催しています。例えば、「ジュリアス・シュルマン、近代化と都市」展は、アメリカ国立建築博物館やシカゴ美術館を巡回しました。また、展覧会以外にも、講演会、談話、学会、ワークショップ、映画・ビデオ上映会など、多様なイベントを開催しています。
研究者招聘制度は、美術史の領域をより広い人文科学分野に統合することを目指しています。研究者には賃金と住居が提供され、制作の義務はありません。1993-1994年には、ドイツの作家クリスタ・ヴォルフがGRI滞在中に『Medea : Stimmen』を執筆しました。毎年、年次テーマに基づき研究者を招聘しており、過去には「ネットワークの境界」や「古代イメージのもつパワーと機能」、「美術的実践」などがテーマとして採用されました。滞在期間は、ゲティ奨学生が3、6または9ヵ月間、短期奨学生が1-3ヵ月間、博士課程研究員が1学年度の9ヵ月間となっています。
GRIは、「論点と討論」「文献とドキュメント」「入門（電子形式の文化遺産情報）」「リソース（図書館の特別コレクション）」といった分野で出版物をシリーズ化し、展覧会図録などの資料もハードコピー形式で刊行しています。過去には、ゲティ美術史研究所、ゲティ情報研究所、ゲティ美術史情報プログラムによって、以下のような書籍が出版されています。
Bakewell, Elizabeth, et al. Object, image, inquiry: the art historian at work: report on a collaborative study by the Getty Art History Information Program (AHIP) and the Institute for Research in Information and Scholarship (IRIS), Brown University. Santa Monica, CA: AHIP, 1988. ISBN 0-89236-135-2
Gaehtgens, Thomas W., and Heinz Ickstadt. American icons: transatlantic perspectives on eighteenth- and nineteenth-century American art. Santa Monica, CA: Getty Center for the History of Art and Humanities, 1992. ISBN 0-89236-246-4
Necipoglu, Gülru, and Mohammad Al-Asad. The Topkapi scroll: geometry and ornament in Islamic architecture: Topkapi Palace Museum Library MS H. 1956. Santa Monica, CA: Getty Center for the History of Art and the Humanities, 1995. ISBN 0-89236-335-5
Roth, Michael S., Claire L. Lyons, and Charles Merewether. Irresistible decay: ruins reclaimed. Los Angeles, CA: Getty Research Institute for the History of Art and the Humanities, 1997. ISBN 0-89236-468-8
Baca, Murtha. Introduction to metadata: pathways to digital information. Los Angeles, CA: Getty Information Institute, 1998. ISBN 0-89236-533-1
Warburg, Aby. The renewal of pagan antiquity: contributions to the cultural history of the European Renaissance. Los Angeles, CA: Getty Research Institute for the History of Art and the Humanities, 1999. ISBN 0-89236-537-4
Paul, Carole, and Alberta Campitelli. Making a prince's museum: drawings for the late-eighteenth-century redecoration of the Villa Borghese. Los Angeles, CA: Getty Research Institute, 2000. ISBN 0-89236-539-0
Phillips, Glenn, and Thomas E. Crow. Seeing Rothko. Los Angeles: Getty Research Institute, 2005. ISBN 0-89236-734-2
Reed, Marcia, and Paola Demattè. China on paper: European and Chinese works from the late sixteenth to the early nineteenth century. Los Angeles: Getty Research Institute, 2007. ISBN 978-0-89236-869-3
ゲティ情報研究所から運用を引き継いだ電子版データベースには、以下のようなものがあります。
ゲティ語彙プログラム: 美術建築事典（AAT）、ゲティ地名事典（TGN）、美術家総覧など
美術史文献（Bibliography of the History of Art = BHA）
ゲティ来歴目録: コレクションの来歴、オークションの売買動向などを記録
* ゲティ調査ポータル: パブリックドメインでデジタル化された美術史文献への無料アクセス
これらのデータベースは、美術市場や作品の出所調査、美術史研究に活用されています。ゲティ事典事業（AAT、TGN、美術家総覧）は、Web上でも提供されています。また、GRIはエイブリー建築美術図書館と共同で「エイブリー建築インデックス」を制作、データベースをコロンビア大学に移管しました。さらに、ドイツとアメリカの来歴研究交換プログラム（PREP）に参加し、ホロコースト時代の来歴プロジェクトを専門とする研究者養成に貢献しています。
GRIの上級職員には、様々な分野の専門家が含まれています。
2006年度のGRIは、常勤および非常勤職員合わせて約200名、予算規模は6,370万アメリカドルでした。
沿革
GRIは、1983年に「ゲティ・センター人文科学・美術史部門」としてカリフォルニア州サンタモニカで創設されました。初代所長にはカート・W・フォルスターが就任し、設立当初3万冊だった蔵書は、1986年には45万冊にまで拡張されました。フォルスター所長は1992年の退任時に、GRIが「小さな博物館図書館から、美術と文化における卓越した研究拠点の一つになった」と述べています。1994年には、イタリアの古典美術と考古学の教授であるサルバトーレ・セッティスが所長に就任。1996年に「ゲティ人文科学美術史研究所」と改称され、1999年以降は「ゲティ研究所」という通称で知られています。
ロサンゼルス・プロジェクト
1995年から1999年にかけて、特別展「題材としてのロサンゼルス—ロサンゼルス・コミュニティーの変革文化」が開催されました。この展覧会は、新設されるロサンゼルス研究助成金の支援と、地元文化の保存・展示を促進することを目的としていました。1999年には地元団体と共同で、『文化遺産・ロサンゼルスーロサンゼルスにおける地名度の低いアーカイブとコレクションの情報源目録』が公開されました。2000年、ロサンゼルス・プロジェクトは南カリフォルニア大学に移管され、オンライン版情報源目録の更新と展開が継続されています。また、1999年にはゲティ情報研究所が解散したことで、その機能の多くをGRIが引き継ぎました。
2000年には、セッティス前所長の推薦により、トーマス・E・クロウがGRI所長に就任。その後、クロウがニューヨーク大学へ留学したことを受け、2007年11月からは、ドイツ出身の美術史家であり、「ゲティ・センター人文科学・美術史部門」時代（1985-1988年）に客員研究員であったトーマス・E・ガイゲンズが所長を務めています。
事業
図書館
GRIの図書館は、100万冊を超える書籍、定期刊行物、オークション図録に加え、美術および建築関連の写真200万点以上を所蔵しています。また、アメリカの彫刻家マルヴィーナ・ホフマンの全作品アーカイブ、美術史家ハラルド・シーズマンの書簡や研究ファイル、書籍、写真などの膨大なアーカイブ、さらにグーピル商会、ブソー・ヴァラドン画廊、クネーデル画廊、デューフェン兄弟などの美術商の記録も所蔵しています。GRI図書館の蔵書は館外への貸し出しは行っていませんが、入館資格に制限はありません。
展示会およびその他のイベント
GRIには2つの展示施設があり、年2回、研究図書館の特別収蔵品や招聘美術家の作品に焦点を当てた展覧会を開催しています。例えば、「ジュリアス・シュルマン、近代化と都市」展は、アメリカ国立建築博物館やシカゴ美術館を巡回しました。また、展覧会以外にも、講演会、談話、学会、ワークショップ、映画・ビデオ上映会など、多様なイベントを開催しています。
研究助成制度
研究者招聘制度は、美術史の領域をより広い人文科学分野に統合することを目指しています。研究者には賃金と住居が提供され、制作の義務はありません。1993-1994年には、ドイツの作家クリスタ・ヴォルフがGRI滞在中に『Medea : Stimmen』を執筆しました。毎年、年次テーマに基づき研究者を招聘しており、過去には「ネットワークの境界」や「古代イメージのもつパワーと機能」、「美術的実践」などがテーマとして採用されました。滞在期間は、ゲティ奨学生が3、6または9ヵ月間、短期奨学生が1-3ヵ月間、博士課程研究員が1学年度の9ヵ月間となっています。
出版活動
GRIは、「論点と討論」「文献とドキュメント」「入門（電子形式の文化遺産情報）」「リソース（図書館の特別コレクション）」といった分野で出版物をシリーズ化し、展覧会図録などの資料もハードコピー形式で刊行しています。過去には、ゲティ美術史研究所、ゲティ情報研究所、ゲティ美術史情報プログラムによって、以下のような書籍が出版されています。
Bakewell, Elizabeth, et al. Object, image, inquiry: the art historian at work: report on a collaborative study by the Getty Art History Information Program (AHIP) and the Institute for Research in Information and Scholarship (IRIS), Brown University. Santa Monica, CA: AHIP, 1988. ISBN 0-89236-135-2
Gaehtgens, Thomas W., and Heinz Ickstadt. American icons: transatlantic perspectives on eighteenth- and nineteenth-century American art. Santa Monica, CA: Getty Center for the History of Art and Humanities, 1992. ISBN 0-89236-246-4
Necipoglu, Gülru, and Mohammad Al-Asad. The Topkapi scroll: geometry and ornament in Islamic architecture: Topkapi Palace Museum Library MS H. 1956. Santa Monica, CA: Getty Center for the History of Art and the Humanities, 1995. ISBN 0-89236-335-5
Roth, Michael S., Claire L. Lyons, and Charles Merewether. Irresistible decay: ruins reclaimed. Los Angeles, CA: Getty Research Institute for the History of Art and the Humanities, 1997. ISBN 0-89236-468-8
Baca, Murtha. Introduction to metadata: pathways to digital information. Los Angeles, CA: Getty Information Institute, 1998. ISBN 0-89236-533-1
Warburg, Aby. The renewal of pagan antiquity: contributions to the cultural history of the European Renaissance. Los Angeles, CA: Getty Research Institute for the History of Art and the Humanities, 1999. ISBN 0-89236-537-4
Paul, Carole, and Alberta Campitelli. Making a prince's museum: drawings for the late-eighteenth-century redecoration of the Villa Borghese. Los Angeles, CA: Getty Research Institute, 2000. ISBN 0-89236-539-0
Phillips, Glenn, and Thomas E. Crow. Seeing Rothko. Los Angeles: Getty Research Institute, 2005. ISBN 0-89236-734-2
Reed, Marcia, and Paola Demattè. China on paper: European and Chinese works from the late sixteenth to the early nineteenth century. Los Angeles: Getty Research Institute, 2007. ISBN 978-0-89236-869-3
データベース
ゲティ情報研究所から運用を引き継いだ電子版データベースには、以下のようなものがあります。
ゲティ語彙プログラム: 美術建築事典（AAT）、ゲティ地名事典（TGN）、美術家総覧など
美術史文献（Bibliography of the History of Art = BHA）
ゲティ来歴目録: コレクションの来歴、オークションの売買動向などを記録
* ゲティ調査ポータル: パブリックドメインでデジタル化された美術史文献への無料アクセス
これらのデータベースは、美術市場や作品の出所調査、美術史研究に活用されています。ゲティ事典事業（AAT、TGN、美術家総覧）は、Web上でも提供されています。また、GRIはエイブリー建築美術図書館と共同で「エイブリー建築インデックス」を制作、データベースをコロンビア大学に移管しました。さらに、ドイツとアメリカの来歴研究交換プログラム（PREP）に参加し、ホロコースト時代の来歴プロジェクトを専門とする研究者養成に貢献しています。
上級職員
GRIの上級職員には、様々な分野の専門家が含まれています。
従業員および予算規模
2006年度のGRIは、常勤および非常勤職員合わせて約200名、予算規模は6,370万アメリカドルでした。
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