ゲノム刷り込み

ゲノム刷り込み（ゲノムインプリンティング）とは、遺伝子発現を制御するメカニズムの一つであり、通常、哺乳類は父親と母親からそれぞれ遺伝子を受け継ぎますが、特定の遺伝子においては、片方の親から受け継いだ遺伝子だけが発現するという現象です。つまり、遺伝子がどちらの親から受け継がれたかを記憶している状態を指します。

ゲノム刷り込みと疾患

片親由来の遺伝子のみが発現するということは、利用できる遺伝子が一つしかないため、その遺伝子に欠陥があった場合、バックアップが存在しないことになります。その結果、流産や遺伝性疾患のリスクが高まります。

その代表例がプラダー・ウィリー症候群です。この疾患は、15番染色体上の特定の遺伝子（セロトニン受容体関連遺伝子）が父親由来の遺伝子のみ発現するために、父親由来の遺伝子に異常があると発症します。母親由来の遺伝子が正常であっても、正常な個体発生が妨げられ、精神遅滞や生殖器の発達異常などの症状が現れます。

ゲノム刷り込みの必要性

このようなリスクがあるにもかかわらず、ゲノム刷り込みがなぜ哺乳類に備わっているのかについては、いくつかの仮説が存在します。

単為生殖の防止: ゲノム刷り込みは単為生殖を防ぐために存在するという説があります。目的論的な妥当性はさておき、ゲノム刷り込みの存在が哺乳類における単為生殖を阻んでいるのは事実です。
全ての遺伝子を発現させるため: 高度に発達した生物への進化には、ゲノム刷り込みが必要であったとする説です。ゲノム刷り込みがあったからこそ、哺乳類は部分的に発現しない遺伝子を持つリスクを冒さずに、高度な個体組織を持つように進化できたと考えられます。

ゲノム刷り込みは、個体発生や胎盤形成と密接な関係があることが分かっています。また、ゲノム刷り込みは有袋類と有胎盤類でのみ確認されており、単孔類には見られません。さらに、有袋類と有胎盤類の間で、ゲノム刷り込みのメカニズムは大きく進化しています。

ゲノム刷り込みの機構

分子生物学的には、ゲノム刷り込みはDNAのメチル化による転写調節異常として説明できます。そのメカニズムはほぼ解明されていますが、非常に複雑です。

DNA配列自体には明確な特徴がないため、ゲノム全体でどの程度の遺伝子がこの影響を受けているかは不明であり、現在知られている遺伝子のほとんどは偶然発見されたものです。

参考資料

遺伝学電子博物館
[研究報告1]
* [研究報告2]

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