ゲームの歴史 (書籍)

ゲームの歴史：出版から撤回までの経緯と、ゲーム史研究への影響

2022年11月14日に講談社青い鳥文庫から発売された、岩崎夏海氏と稲田豊史氏による共著『ゲームの歴史』（全3巻）は、発売直後から多くの批判を浴び、わずか4ヶ月後の2023年4月10日に販売中止となりました。本書は、ファミリーコンピュータからスマホゲームまで、コンピュータゲームの歴史を網羅的に解説することを目指したものでしたが、多くの事実誤認や情報源の不確実性が指摘されたのです。

本書の内容と問題点

本書は、ゲーム業界の成り立ちを文化的背景も踏まえて解説することを意図しており、第1巻ではファミリーコンピュータや『ドラゴンクエスト』、第2巻ではPlayStationや『ファイナルファンタジーVII』、第3巻ではスマホゲームやNintendo Switchといったタイトルを取り上げています。しかし、この内容に多くの問題点が指摘されました。

具体的には、「ポケットモンスター」の発想がメンコから生まれたという記述や、iモードに関する記述など、複数のゲーム関係者から「事実と異なる」「情報源が確認できない」「著者の主観に基づいている」といった批判が殺到しました。

たとえば、『ポケットモンスター』の開発に携わったとみさわ昭仁氏やゲーム雑誌編集者の岩井浩之氏は、本書の記述を明確に否定しています。また、iモードの立ち上げに携わった栗田穣崇氏も、本書におけるiモードに関する記述の誤りを指摘しました。

さらに、ライターの西田宗千佳氏や岩崎啓眞氏も、本書に含まれる多くの不整合や、著者の主観が反映され過ぎている点を批判しました。特に岩崎啓眞氏は、本書の誤りを指摘した同人誌『ちょっとは正しいゲームの歴史』と『ゲームの歴史のあとしまつ』を発行しています。

批判と反響

本書に対する批判は、ゲーム業界関係者だけでなく、ゲーム研究者からも寄せられました。ゲーム研究者の向江駿佑氏は、本書の問題点を指摘しつつも、ゲームの歴史を語る難しさや、複数の資料を参照することの重要性を強調しました。一方、ライターの山内貴範氏は、本書の販売中止が、今後のゲーム史研究に悪影響を及ぼす可能性を懸念しています。

著者である岩崎夏海氏は、本書に対する批判に対して反論を試みましたが、その後、反論を投稿したTwitterアカウントを削除しています。

講談社の対応と今後の展望

講談社は、本書に多数の事実誤認があることを認め、2023年4月10日に販売中止を発表しました。書店への在庫返品を求め、購入者からの返品も受け付けました。また、訂正版の出版は予定されていません。

この事件は、ゲーム史研究の難しさや、歴史記述における正確性の重要性を改めて浮き彫りにしました。また、インターネットを通じて、専門家による迅速な批判と検証が可能な現代において、出版物における情報の正確性を担保する仕組みの必要性を示唆しています。

本書の事件は、ゲーム史研究のあり方、歴史記述における責任、そして出版業界における品質管理について、多くの議論を巻き起こしました。今後、より正確で信頼性の高いゲーム史研究が進むことが期待されます。

この事件は、単なる一冊の本の失敗というだけでなく、ゲーム史研究や歴史記述全般に関する重要な示唆を含んでいると言えるでしょう。

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