ゲールタハト

ゲールタハト：アイルランドにおけるゲール語の聖域

ゲールタハト（an Ghaeltacht）とは、アイルランドにおいてアイルランド語（ゲール語）が主に話されている地域を指す言葉です。アイルランド語復興運動の取り組みの一環として、アイルランド自由国時代から公式に認められ、保護されてきました。広義には、スコットランド・ゲール語が話される地域も包含されますが、ここでは主にアイルランドのゲールタハトについて詳述します。

地理と人口

ゲールタハトは、アイルランド西部の沿岸地域に点在しており、ドニゴール県西部、メイヨー県、ゴールウェイ県、ケリー県、コーク県などに集中しています。ウォーターフォード県南部やミース県東部にも、少数ながらゲール語話者が居住しています。人口は約8万5千人と推定されていますが、アイルランド語話者人口は減少傾向にあり、その存続が課題となっています。

政府による支援

アイルランド政府は、ゲールタハトの保護とゲール語の振興に積極的に取り組んでいます。自治体・農村・ゲールタハト事務省が中心となり、Údarás na Gaeltachtaなどの組織を通じて、経済的支援や文化活動の促進など、様々な政策を実施しています。また、アイルランド国営放送であるRTÉ傘下のRaidió na Gaeltachta（ゲールタハト放送局）や、ゴールウェイ県に拠点を置くアイルランド語テレビ局TG4などが、ゲール語による情報発信を担っています。

2005年には、道路標識から英語表記を排除し、アイルランド語地名のみを表記する政策が実施されました。これは、ゲール語の言語文化を積極的に維持・発展させる政府の姿勢を示す象徴的な出来事でした。また、アイルランドはEUとの交渉を通じて、アイルランド語を公式言語として認めさせました。

歴史的背景

ゲールタハトの範囲は、歴史的に変遷してきました。かつては、スコットランド南東部や北部の島嶼部まで、ゲール語が広く話される地域が含まれていました。しかし、スコットランド英語の普及や他の言語の影響などにより、ゲールタハトは縮小し、現在の西部の島嶼部と北東ハイランドの一部地域に限定されています。グラスゴーやエディンバラなど、かつてゲール語が話されていた地域でも、現在では話者はごく少数となっています。

世界におけるゲール語

ゲール語は、アイルランドだけでなく、カナダ東部のノヴァスコシア州、プリンスエドワードアイランド州、ニューファンドランド・ラブラドール州など、アイルランドからの移民の子孫が居住する地域でも話されています。これらの地域では、ゲールタハトを意味する「Gaidhealtachdan」と呼ばれています。

ゲールタハトの未来

アイルランド政府の積極的な取り組みにもかかわらず、ゲールタハトの現状は依然として厳しい状況にあります。アイルランド語話者人口の減少は、ゲールタハトの存続を脅かす大きな課題であり、今後、より効果的な保護策と普及策が求められています。ゲールタハトは、アイルランドの文化的アイデンティティを象徴する重要な地域であり、その維持・発展はアイルランドにとって不可欠な課題と言えるでしょう。ウェールズのウェールズ語話者地域であるY Fro Gymraegと比較検討することも、ゲールタハトの現状と課題を考える上で有益でしょう。

もう一度検索