コイヘルペスウイルス

コイヘルペスウイルスとその病気

コイヘルペスウイルス（KHV）は、鯉（特にマゴイやニシキゴイ）に特有の病気を引き起こす二本鎖DNAウイルスです。このウイルスの存在は1998年にHedrickらによって初めて広く認識されました。彼らは、イスラエルやアメリカ合衆国で発生したコイの病気がウイルスによるものであることを発表しました。当初、KHVは主にニシキゴイに特化したウイルスとして知られていましたが、後の研究で他のコイ種にも影響を及ぼすことが明らかになりました。さらに、金魚や鮒には感染しないことも確認されています。

ウイルスは30℃で不活化されるため、人間への感染のリスクは存在しません。しかし、感染した鯉は外見からの判別が難しいため、ウイルスの検知にはポリメラーゼ連鎖反応（PCR）法が主に使用されています。この手法により、目的のDNAを増幅し、ウイルスの存在を確認しています。

当初、KHVはヘルペスウイルスとして分類されていましたが、そのゲノム構造が哺乳類のヘルペスウイルスとは異なるため、様々な意見がありました。研究の進展により、現在では「ヘルペスウイルス」としての分類が確立されています。

コイヘルペスウイルス病の症状と対策

コイヘルペスウイルスが引き起こす病気、すなわちコイヘルペスウイルス病は、強い致死率を持っており、特に非耐性の鯉においては高い発症率を示します。感染した鯉には以下のような症状が見られます。

• - 鰓のただれ（鰓腐れ）
• - 目のくぼみ
• - 頭部の凹凸

コイヘルペスウイルス病にかかると、致死率は100%に達します。これは、感染後に高水温での飼育が行われた場合でもウイルスを消滅させることができないためです。現在のところ、効果的な治療法は開発されておらず、一度感染すると、その鯉は死に至ることが確認されています。主に水温23℃～29℃で発症し、過剰な給餌や過密飼育が発症の原因と考えられていますが、発病のメカニズムは完全には解明されていません。加えて、感染したコイが必ずしも病気を発症するわけではなく、キャリアとなる可能性もあるため、注意が必要です。

感染の拡大と流行

コイヘルペスウイルスの発生ルートや感染拡大の経緯についてはまだ多くの不明点があります。1996年にイギリスで発生した大量死がKHVの最古の確認事例とされており、その後、1997年にドイツ、1998年にはイスラエルやアメリカ合衆国での流行が確認されました。特に、インドネシアでは流通ルートを通じて感染が広がり、スマトラ島にも影響を及ぼしています。一方、中国においても流行が疑われていますが、公式には感染が確認されていません。

日本では、2003年に茨城県霞ヶ浦で大量死が発生し、これがコイヘルペスウイルスによるものと特定され、感染が全国に広がっていることが明らかになりました。その後、農林水産省はさまざまな対策を講じましたが、すでにウイルスは全国に根付いていると見られています。現在も研究が進められ、三重大学などでは新たなワクチンの開発が行われています。これらの取り組みが実を結び、ウイルスの制御が可能となることが期待されています。

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